もしも2


高橋家、地下室。

完全防音の、父の書斎、兼、ピアノ室。

父が不在のとき、この部屋は、長女あきらの




城になる。






部屋の中央に位置するのは、ヤマハグランドピアノC3。

このピアノが彼女の相棒になってもう長い。




そして、今日の城は








荒れていた。











コンコン、



「アネキー、いるのかー?」

……

「?開けるぞー、」

「……、」

「おいアネk………生きてるか?」


諸用から帰宅した啓介は、自室にもリビングにも姉の姿が見えなかったので、地下室のドアの叩いた。床には楽譜は勿論、CDやそのケースが散乱し、重ねた音楽誌やら情報誌が雪崩を起こし、今日はここで一日籠っていたのだろう、食事した後の食器たち。父お気に入りの黒い革張りのソファには、ゴロ寝用の枕とブランケット。啓介の部屋をいつもバカにしているあきらだが、この様子は


「まんま俺の部屋とおんなじじゃねーか!きったねーなオイ!!」


本人は、というと、ピアノ椅子に腰かけたまま、顔を譜面台に預け、腕は力なく、重力に従って、だらりと下がっていた。


「アネキ、起きろ、どうしたんだよ」

「……のょ」

「は?」

「ショパンて何者、な、のよ…」

「…」

「どう攻略しろってんのよこんな難解な曲!誰が弾けるっつーの意味わかんねぇし!!」

「オネーサマ、口が悪いぜ…」

「何故ショパンなの!!シューマンじゃだめなの!?わたしが敬愛するロベルト・シューマン氏では駄目なのかしら!!??」

「課題なんだろ、なんとかしろよ」

「ウチの先生、Sなのよ!!わたしが弾けなくて苦しむのを絶対楽しんでるわ!」

「それを弾いてやるのがアネキだろ、ぎゃふん言わせてやれよ」

「むりなのよぉぉぉ!わたしがショパン苦手なの知っててこの仕打ち…!!」






「……ほら、」

「……なに?」

「開けてみろよ」

「………モロゾフ、プリン…」

「期間限定かぼちゃプリン。信号待ち中にケーキ屋見えたから買ってきた」

「けーちゃぁあん…」

「ドア開けたらピアノに突っ伏してて息してねぇのかと思った。防音だから余計に静かだしよ、ビックリしたぜー」

「だって…全然進まないんだもん、課題…」

「プリンで元気だせって。土壇場で発揮するのがアネキだろ?

「ん……ありがと…がんばる」









(ショパンだかコペンだか知らねーが応援してるぜ!)

(うん…コペンは車だからね…)





*************

2012,10〜11拍手感謝文でした。


C3は家庭用グランドピアノで多く使われているサイズです。二畳半だったかな。めちゃくちゃなお部屋は、『程度の低いのだめ部屋』だと思って下さい@カンタービレ。シューマン大好きです。ラブ、子供の情景。


2012,11加筆