まほろば


※プロD最終戦後




端から見たら(私が言うのもアレだけど)美形兄弟に挟まれて身動き出来ないこの状況は、かなりオイシイのだろうなと思う。










諸用から帰る途中、父から呼び出し(私、何かしたっけ)を喰らい病院へ寄ったら、丁度、医師会という名の茶飲み会から帰ってきた祖父と会い、『話があるから院長室へおいで』と言われ、父が待つ応接室のソファに座らせられたこと、彼此三十分前。



(ウチに限ってこんなことないと思ってたのに……)


「会ってみるだけ会ってみんか、あきら」

「お父さんの知り合いの息子さんなんだよ、車に詳しい青年でな、きっと話が合うぞ」

(既に顔見知りなんだけどね……)



病院関係で、関東支部とかなんとかで色んな先生方と知り合いになる機会も多かろう、だけどさ、



(よりによって何で北条なのよお父さんんんん!!!!)





父と祖父が持ってきたお見合い話。



お相手は、かつてのライバルであり、同じサーキットを愛する、走り仲間、





北条 豪くんでした。








「聞けば豪くんのお兄さんの凜くんは、涼介の先輩だそうじゃないか。全くの他人じゃないんだし、良い話だと思うぞ、お父さんは」

「っていうかこのご時世に何でお見合いなのよ、理由でもあるの?」

「おじいちゃんは早く曾孫が見たい」

「じいさんの元気なうちにな、どうだあきら」

「どうだじゃないわよぉぉおお!!!!」


恋愛の末にめでたく結婚っていうのが主流の昨今、なんでお見合い?!なんで北条??!!


「わたし!まだまだやりたいことがたくさんあるの!結婚はイヤ!お断りしてきて!」

「涼介も啓介も我が身が忙しくてなあ、そんな気になれんと言っておったわ。あきらならと思ったんだがの」

「我が身が忙しいのは私も一緒だってば……!」

「お前らが結婚せんのなら先にあきらに見合いさせるぞと言うてしもうたわ」

「……ちょっと待っておじいちゃん、お見合いの話、お兄ちゃんたちにしたの?」

「相手が誰とは言うとらんぞ、それがどうかしたか?」

「ひいぃぃぃ……!!!!!」



怒られる

ぜったい、怒られる……!










そして、冒頭へ。




予感的中。




「相手は誰だ、あきら」


触れる手は、とてもやさしいのに


「なぁ、教えろよ、アネキ」


囁く声は、とても甘いのに




(ふたりとも目が笑ってないよぉおお!!!)




リビングの壁に追いやられ、

四面楚歌

八方塞がり



「い、言ったら絶対怒るもん……!」


「怒らないから、な?」


やさしい指が、頬から首筋へ


「教えてくんないと、ちゅーしちゃうぞ」


甘い声が、耳元へ


その間、兄弟の身体はあきらにぴたりとくっつき、空いている腕や手足が、あきらの身体に絡みつく。



「……身体に、訊いてやろうか」


背中で、プチ、と音がした。


「っ……お兄ちゃ、外しちゃヤダ……!」


「言わないアネキが悪ィんだからな」


ボトムが捲れ上がる、布擦れの音がした。


「やっ……!けい、すけ…っ、だめ、だよぉ…!」


大好きなふたりの、色っぽい声と仕草で、頭がどうにかなりそうだった。

麻痺する鼓膜、肌をまさぐる大きな手、甘い、あまい、誘惑。


(でも待ってここリビング……!)


「言う、からぁ…っも、やめて……!っ…んん……!」


「……残念、久しぶりにあきらを抱けると思ったのに」


「あーもー、マジかわいいよアネキ」


「はっ……はぁ……、怒らない、って、約束して?」


「ああ」


「ん、約束」







「……北条、豪くん、です」















「よし、神奈川行くぞ」

「高速ブッ飛ばそうぜアニキ」


「やっぱり怒るんじゃない……!」

「の、前に」

「だな」

「……え、」


少し離れた身体が、また、近くなり、



「お仕置き、あきら」


「さっきのアネキ可愛すぎてオレもうガマン出来ねェ」



甘い、あまい、時間を、きみに











オレたちの愛を思い知れと言わんばかりのあの日から数日。


まだ少し痛い腰を労りながら、あきらが赴いた富士スピードウェイ。



「よう、オレのフィアンセ」

「うっさいわよ豪」


チームのシェイクダウン中に、現れたこの男。


「親父から話を聞いたときはマジかと思ったがな」

「私は今でも信じてないわよ」


ラップタイムを計測しながら、隣の彼の話に応える。


「サーキットの車みたいに、キレイに流れていかないかしら、この話」

「おいおい、連れねェな、あきら」




セッティング内容とラップタイムを見比べて、速さと強さへの改善点を考えていたとき、



「なぁ、」

「なによ」

「そんなに嫌か?」

「なにが」

「オレのこと」




「豪……?」




真剣な声で、話すから




「……豪が嫌いとかじゃないよ、お見合いがイヤなの。身を固めるなんて……私はまだ自由でいたい」



「……オレなら、あきらを自由にしてやれる」


「え……?」


「始めてみないか、オレと」


「なに、豪、」



持っていたバインダーが、かたん、と地面へ



豪に、抱き締められてる


ちょっと掠れた声が、耳に響いた




「好きなんだ、あきら」



「え、ちょっと、豪……っ離して…っ!待って……ってば!!」











…………あれ……?









(私、富士に居たんじゃ……)



「ゆ、め……?」



上半身を起こし、呆然とする。


カーテンから零れる、朝の光。


目の前は、いつもの自室、見慣れた空間だった。



隣に、自分を挟んで兄弟ふたりが眠っていることを除いては。


(そうだ、昨日、久しぶりに三人で飲んで、私の部屋で寝たんだっけ)





やっぱり似てるなって思う、ふたりの寝顔。

兄と弟、それぞれの髪を、ふわり、撫でてみた。




「……どこにも行かないでね……?」


夢では、私がそうだったけど


「お兄ちゃんと啓ちゃんが、私から離れたら、」




いつか来るかもしれない、結婚とか、別離、とか




「きっと、なみだ、止まらないや」



眠るふたりを起こさないように、静かに横たわる。


真ん中が、私の場所だから。


ずっとずっと、ここが、私の、





『まほろば』











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夢 オ チ で す よ ー ! (^o^)/



父方おじいちゃんと院長先生なお父さん登場です。おじいちゃんは現場を引退されて、今は医師会の役員さん。そこで孫の相手を見つけてくるという何とも迷惑なハナシで←


豪さんのキャラが掴みにくい……がんばります(`・ω・´)


2013,1アップ