花の行方


※プラクティス中、松本視点



偶に、本当に偶になんだけど、『仕事が早く片付いた』とか『今日は予定がない』とかで、顔を出しに来る、あきらさん。

自分と同じ生業の彼女、しかし活動のフィールドが違うため、彼女のセッティングと自分が考えるものとは根本的に少し方向が異なるけれど、それもひとつの答えとして、役立てさせてもらっている。

自分よりはるかに年下で、可愛らしくて、みんなが言う『妹みたいだ』と自分も思う。この子の頭の中を一度見てみたいと、車を前にして話をする度に感心する。彼女が持つサーキットの理論をうまく峠に合わせて説明する姿は、同じような考えをするあのいろは坂の皇帝に、少し、本当に少しなんだけど、似ている気がした。とは、涼介さんには決して言えない。

かくして今日もプロジェクトの打ち合わせ兼プラクティス。ハチロクにケージを入れて、藤原に慣らし運転をさせているところだ。冒頭でも話したが、『今日は予定がない』日だそうで、GTチームのつなぎではなく作業用つなぎを着て(チームつなぎは目立つからオフでは着たくないらしい)、宮口と談笑しているあきらさん。盛夏は過ぎたけれどまだ蒸し暑い赤城、彼女は、つなぎ上部を脱ぎ袖を腰で結び、半袖の黒いインナーの姿。それが、何というか、


(オレが涼介さんなら、すぐに何か羽織らせたいな)


その兄はパソコンに夢中で、妹の姿には気付いていないようだった。

いや、まずいだろう、あれは。

黒いインナーは、某アパレルチェーンが夏に推しだす、速乾性、フィット素材のもの(自分も愛用しているシリーズのためわかってしまった)

あきらさんの細くしなかやな身体のラインに、視線がいってしまう。腰で結んだつなぎの所為もあり、ウエストの細さを更に強調しているように見えた。首にかかる髪も暑いのか、小さいけれどひとつに結い上げている。

可愛いの一言で済む子ではないなと、自分の目で確信した。今更かと思うだろうが。涼介さんのように聡明で、啓介さんのように明朗、今日のように時折見せる色気は、彼女特有のものか。



「アネキ―!パス!」


一号車からミネラルウォーターを取り出した啓介さんが、少し離れたあきらさんに投げ寄越した。


「ぅわっ、啓ちゃん危なっ!」


急に投げられたあきらさんは取れるはずもなく、代わりに隣にいた宮口がキャッチして、事なきを得た。


「啓介さん今のはちょっと無理ありません?」

「うっせ、アネキとずっと笑ってやがる宮口が面白くなかったんだよ」


バトル時の鋭い瞳はどこへ消えたのか、あきらさんを前にした啓介さんは、本当、猫のように甘える。宮口との間に入り、キャッチされたペットボトルをあきらさんに渡していた。


「アネキ、藤原が帰ってきたらさ、アネキのエボと走らせてくんねェ?」

「えぇ?すぐには無理だよ、峠にセットしてないし…」

「最近一緒に走ってねェじゃん、いいだろ?」

「ううーん…」


ミネラルウォーターを飲むあきらさんに正面から抱きつく啓介さん。身長差で、あきらさんを見下ろすことになる。

いやいや待って下さい啓介さん、その手ヤバくないですか。絶対意識して触ってますよね、腰。というか背中。というかインナーの胸元見てますよね。


「じゃあさ、アネキが勝ったら、ひとつだけワガママ聞くよ」

「啓ちゃんが勝ったら?」

「……、な、だめ?」



耳元で何言ったんですか啓介さん、真っ赤ですよお姉さんの顔。

やれやれこの姉弟は、と思っているところへ、豆腐号が戻ってきた。


「ケージはどうだった?藤原」

「違和感はあるんですが…自分を守るためのものですし、慣れていくしかないですね」


嫌そうな顔をしていないところを見ると、ケージを付けたことは成功だったようだ。


「涼介さんに報告してきますね」

「ああ、その間にハチロクのチェックしておくよ」


パソコンから顔を上げた涼介さんと話したあと、一号車に乗り込んだ藤原は、そのあとすぐに外へ出て、今度は史浩さんと何やら言葉を交わし、指を差した史浩さんの目先には、先程の姉弟が。


(おいおい、波乱になるなよ…)


慣らし運転から帰ってきたときには見せなかった、藤原の嫌そうな顔。ツカツカと、姉弟の方へ向かっていった。このダウンヒラーも、彼女を相当気に入っているらしい。


「オレの分の水、一号車になかったんですけど」


ギロリ睨む先には、宮口でもあきらさんでもなく、ヒルクライムエース。


「あー、ワリ。さっきオレ飲んじゃったわ」


悪びれもなく答える啓介さん。ああ、これは藤原の反応を楽しんでいる。

『水がない』と言って睨んでいるのではなく、『自分が真面目に走っている間にあきらさんとイチャつくな』と言いたいらしい。現に、あきらさんの腰に添えている啓介さんの腕を、しっかと押さえているのだから。


「ごめん拓海くん!人数分あったのに余計な私が飲んじゃったから…」


啓介さんに抱かれながら藤原に応える彼女は、持っているペットボトルを見、申し訳なく顔を困らせた。


「……残り、もらっていですか?あきらさん」

「え…?」


にこり、と啓介さんを睨む瞳から一転、ふんわり微笑む藤原が、そっとあきらさんの手からペットボトルを奪う。飲みかけのミネラルウォーターを一気に飲み干した。



「あきらさんの間接キス、いただきました」


ごちそうさまです、と、真っ赤になった彼女に空ボトルを渡し、ついでに頬にキスをひとつ。

その場を離れる藤原は、ふふん、と不敵な瞳で啓介さんを見た。

後日、様子を間近で見ていた宮口が言うには、『藤原の内なる炎を見た気がした』らしい。


啓介さんを一歩出し抜き頬にキスまでやってのけた藤原に、啓介さんの怒りの咆哮が赤城に木霊し、涼介さんに叱られ、胃を痛める史浩さんの姿を見るのは、この数秒あとのこと。







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2013,3〜6月までの感謝文でした。

相当視力いいな松本(笑)どこまで見えてるんだ!兄マックスの死神戦=松本祭りなので、宅でも彼にフォーカスをば。ヒロインちゃんのインナーはユニークなクロージングのサラファインです。松本には是非シルキードライを着てほしい。





おまけ↓




「いい加減にしないか、啓介、藤原」

「だって藤原がアネキにキスしたー!」

「あんたがオレの水飲むからでしょーが」

「あの、えっと、ごめんね拓海くん」

「あきらさんは悪くないですよ」

「お前なんだよその態度の違い…」

「あきらさん限定です」

「コイツ…っ!」

「そこまでだ二人とも。あきら、とりあえず羽織りなさい。オレ以外にはあまり見せてほしくないからな」

「わ、お兄ちゃんのシャツ。って、私なにかおかしい?」

(ちっ、アニキ余計なことを!)
(ダボっとしたシャツも可愛いですけど何か悔しい)




おいしいところを持っていくのは、やっぱりお兄ちゃんです。