花へ嫁ぐ
ID.『P高橋』完全版
小さい頃、一度は思っていたことがあるの。
なに?
シンデレラや、白雪姫みたいに、ふわふわのドレスを着てね、
うん。
笑顔が素敵な、やさしい王子さまに出会って、恋をして、
それで?
ずっとね、一緒に、幸せになるの。
花へ嫁ぐ
昔、家族で旅行の際に立ち寄った、森の中の教会が、大人になっても忘れられない。夏の暑さから外れ、木陰に冷やされた木造の教会。中に入ると、それはそれは厳かなステンドグラス。そして、しん、と特別な空気に感じた、大きな十字架が目の前に現れた。子供だった自分が見た光景が、今、もう一度繰り返される。
誰も招待していない。
私たちだけの、内緒で決めた、結婚式。
両親にも、とても仲の良い友達にも、誰にも教えなかった。
私たち、兄妹弟三人、だけの。
特別な日。
「アネキ、終わったか?」
ブライズルームにて花嫁が支度中、新郎"ふたり"は別室にて準備をしていた。
プロポーズは、もう、幼い頃に済ませたも同然だった。
あきらはオレたちが守ると誓った兄弟と、ずっとふたりと一緒にいたいと願う真ん中。それは、子供の頃からの約束。改まって言葉にしたのは、去年のあきらの誕生日。休みを合わせて三人で遊びに行った、あきらが大好きなテーマパーク。ライトアップされた荘厳な城の前で、ジュエリーケースを開いた。
震える左手を、やさしく涼介に支えられ、
細い薬指に、啓介がしっかりと納めてくれた。
あれから一年。
アテンドスタッフにドレスアップを任せながら口元にほんのり笑みを湛え、三人で過ごした出来事をひとつひとつ思い出していたときに、新郎の片方の声とノックの音。"三人で式を挙げる"ことに、教会側は異を唱えてこない。これから幸せになろうと決めた者たちに、咎めることも、分け隔てることもなく、平等にバックアップしてくれる。
「啓介様かしら、入って頂きましょうか?」
「…今は、まだ、だめ。やっぱり、ちょっと恥ずかしいな、見られるの…」
憧れだった、ふわふわのドレス。
総シルクで仕立てられ、艶やかな光沢と、たっぷりのレース。控えめだが、胸元と腰にあしらわれた白いバラが、あきらの元々の可愛らしさを引き立てた。
「教会の入り口で待っていてと、伝えてください」
キラキラのティアラに、真っ白いマリアヴェールをかぶせて。細い手首にはめた、ショート丈のレースのグローブ。
「さあ、王子様たちにお披露目に参りましょう」
アテンドと共に、ブライズルームを後にした。
「アニキと同じタキシードか、なんか照れる」
「オレたちふたりに似合う色をあきらが決めてくれたんだ。そういう意味では、オレもちょっと照れくさいかな」
シルバーグレイのタキシードをお揃いで着こなす涼介と啓介の胸元には、白と黄色のバラが一輪ずつ。緊張しているのか、あきらの到着を髪を弄りながらそわそわと待つ弟と、教会のステンドグラスを静かに見つめる兄。牧師の立つ祭壇近くで待っていてほしいと、先程アテンドに言われ、しばらく経つ。
「アニキ」
「ん?」
「オレ、アニキよりもアネキのこと幸せにすっから」
「何を生意気なことを」
「どっちがたくさん、アネキを笑顔にできるか勝負な」
「ふっ、あきらのファーストキスはオレがもらったことを忘れたか啓介。それだけお前よりオレの方が好きなんだよあきらは」
「ンなガキの頃の話すんなよズルくせーな。いくつだよそれ」
「お二人様、あきら様のご到着ですよ」
教会に響く、ハープの音色。
開く、大扉。
森に零れる木漏れ日の光を背に、そこには、真っ白い、オレたちのプリンセス。
赤い絨毯の長い道を、ゆっくりゆっくり、こちらのほうへ。
今までの三人の出来事を、なぞっていくように。
思い出を、見返すように。
少し俯き気味だったあきらが顔を上げ、マリアヴェール越しに兄弟を見遣る。
右側に涼介、左側に啓介。それぞれの手をそっと重ね、見つめ合った。
華奢な薬指には、永遠の輝きを放つプラチナを。
私よりお兄ちゃんの方が似合うと言っていたその白銀を、細くて長く、包み込んでくれる涼介の薬指へ。
私の指のサイズを見て細すぎると驚愕していたものとは反対のを、しっかりと男らしい、支えてくれる啓介の薬指へ。
「お兄ちゃん、啓ちゃん」
「ん?」
「なんだ?」
これからも、ずーっと一緒だよ
私を選んでくれて、ありがとう
マリアヴェールを上げた瞳は、嬉し涙で濡れていた。
聖なる口づけをする前に閉じたことで、頬に水の道ができる。
それをやさしく拭ってやりながら、涼介は伝えた。
「あきら」
「…はい」
「あきらがどんな辛い顔をしていても、どんなに苦しいときでも、オレたちはいつも傍にいる」
「おにい、ちゃ…」
「それであきらの笑った顔が見られるなら、オレたちは幸せだ」
「…っ、ふ、」
「あきらの笑顔以外、何もいらないんだ。オレと啓介は」
「ひ、っく…」
「幸せにしてみせる。誰よりも」
「は、い…っ」
「……名前を、呼んでくれるか?」
「……はい……涼介」
幸せな笑顔と、幸せの涙であふれたあきらに、涼介と啓介は、慈しみと誓いの口づけを。
「もう、アネキじゃねェから、いいよな、呼んでも…」
「ん…」
「……あきら」
「…はい」
「あきら」
「っ、啓、すけ」
「世界でいちばん、かわいいよ」
「…っ、啓介…っ」
「守るからな、絶対」
「は、いっ…」
オレたちの大事なプリンセス。
可愛い声で、名を呼んで。
愛しい時間を、これから毎日、贈ってあげるから。
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2013,6月末〜8月初までのぱち感謝文でした。
イメージは長野県の某森の中です。素敵な教会。ID.では裏ちっくだったのですが、少々変更しましてCERO『A』にいたしました。
すべてのお嬢さま方、すべての花嫁さまに捧げます!