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「みんな落ち着いて聞いてくれ」
シャツのボタンを掛け違え、寝癖だらけのお前がまず落ち着けよと史浩は思った。
その日、FCのバケットシートがチャイルドシートになっていた。
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涼介の腕にしかと抱かれている幼子は、2、3歳くらいの女の子だろうか。大人サイズのタンクトップをワンピースのように着ていた。艶々の黒い髪、くりっとした丸い瞳。字の如く桃のような瑞々しい頬。これは、どうしたものか。
「おにいちゃ、おかお、すりすりいたい…」
「ああ、ごめんなあきら。お前が可愛すぎるからつい」
あの、何事にも動じないような、ほやんとした下りのエースが大きな瞳をカッと開き、啓介と共に驚愕の大合唱。
「けーちゃん、たくみくん、そんなにおどろかなくても」
「いやいやいやいやどーしたんですかあきらさん!!!」
「アネキ?!これっこのちっこいのアネキなのか?!!」
「そーなのー」
冷静なメカニックふたりは唖然と口を開けてフリーズし、ケンタと史浩はオロオロしだした。挙動不審が止まらない。
何事かが起きて、あきらさんが小さくなってしまいました。
「『おにいちゃん、わたしちいさくなった』と、舌足らずな声で連絡があった。大学から飛んで帰ったよ」
「よんてんしきのしーとべるとがねー、ぶかぶかなのー」
「オレの運転が気に入ったのか、さっきから上機嫌でな。可愛くてたまらん」
「おにいちゃんのうんてん、ゆうえんちみたいなのー」
ねー、と、涼介に抱かれたままコテンと首を傾げ、にこにこ顔で兄に笑いかける。
その、兄の崩れた顔たるや。
(涼介があんなににっこりと笑ってるぞ…!)
(さすがあきらさんです!)
(なんなんですかあのちっこい天使!)
涼介にとって笑いとは、愛想笑いか口角を上げる程度のものだったのに、この小さな妹は軽々とそれをぶち壊した。史浩、松本、宮口も相当に驚いている。
「あきらがこのくらいのときはオレも似たような頃だったからな…。こうして抱き上げることなんて出来なかった」
先程から抱く力を緩めようとしないこの男は、史浩史上、例にない兄バカっぷりだった。
すりすり、ふにふに。ほっぺにキス。
ちゅ、と可愛らしい音がしたとき、ついに弟が爆発した。
「だああああ!!アニキずりィ!!アネキ!オレにも抱っこ!」
「やらん」
「アニキにゃ聞いてねェ!オレんとこおいでアネキ!」
「けーちゃん、はーい」
よじよじと、涼介から降りようとするあきらだが、兄はそれを許さない。
「こら、お兄ちゃんのところにいなきゃダメだろう」
「だあってけいちゃんのとこいくのー」
「あきらはお兄ちゃんより啓介が好きなのか?」
「おにいちゃんもけいちゃんもどっちもすきなのー」
むす、とした目で涼介を見るが、もはや誰にも止められないこのデレッデレな兄にしてみれば、それも可愛い仕草に過ぎない。こっちにおいでと手を差し伸べる啓介と、頑なにやらんと突っぱねる涼介。そこへ、あきらに『癒されるわ』と言われたこの男が割って入った。
「あきらさん、その…、だっこ、させてください…」
藤原拓海。渦中に飛び込む度胸があり、怖いもの知らずな少年だ。おずおずと手を出し、怖がらせないように、おいで、と優しく囁く。
「おにちゃ、たくみくんとこいくの。はなして」
「ダメだ」
「や、いくの。たくみくん、すきなのー」
「……な…ッ!」
「アネキそりゃないぜ…」
涼介が力を緩めた隙にあきらは拓海に手を伸ばし、拓海は小さな身体を抱き留める。ほわほわしたあきらに自然と優しい顔になり、きゃっきゃとはしゃぐ小さな彼女の背中をぽんぽんとあやす。藤原は保育士向きだなあと、松本は思った。
「たくみくん、すきー」
「オレもあきらさんが好きですよ」
「ねぇね、はちろくのってみたい」
「だめです。シートが合わないから危ないですよ」
「えぇー、けち」
「今度チャイルドシート載っけて、一緒にドライブに行きましょうね」
「えへへ、やったあ!」
かたやほのぼのした空気。かたやドス黒い嫉妬の空気。今夜の赤城の気流は、乱れまくっていた。
「お兄ちゃん、何見てるの?アルバム?」
「いや、この頃、もっとあきらを抱っこしておけばよかったと思ってな」
「わあ、これ、2歳くらいじゃない?お父さん、今のお兄ちゃんにそっくりね!」
「この時の父さんが羨ましいよ」
「頭大丈夫?お兄ちゃん」
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2013,8月〜10月までの感謝文でした。
すべてはお兄ちゃんの妄想!
ちびっこが180超の身長をよじよじする姿ってかわいいと思います(^q^)