冬のお揃い
高橋イトコーズのお話
「こっちだよあきら姉ェ〜」
私には、大好きないとこが三人います。頭がよくてかっこいいいちばん上の涼兄ィと、おしゃれでかわいい真ん中のあきら姉ェと、うるさくてちょっとイジワルな下っぱの啓兄ィ。三人とも忙しい人たちだから、特にここ最近揃っているところを見たことがなかったんです。でも、今は学校の冬休み。高校も大学も長いお休みになって、あきら姉ェも春までレースがないから、この間久し振りに三人に会えました。
「待たせてごめんね緒美ちゃん、駐車場すっごく混んでたの」
「ううん、平気だよ。ねぇね、今日はどっちのクルマで来たの?」
「かわいい緒美ちゃんのためにかわいいフィガロで来ました」
「やった!緒美、あのクルマ好き!あとでドライブしようねあきら姉ェ」
今日は女の子同士、あきら姉ェとお買い物です。
「涼兄ィたちは?」
「お兄ちゃんは家でパソコンとにらめっこしてたよ。啓ちゃんに『緒美ちゃんとお出かけ』って言ったら黄色い子に乗って出ていっちゃった」
「ち、荷物持ちに来てほしかったのに」
「だよねー、今日はいっぱいお買い物するんだもんね」
少しの用事を済ませてやってきたあきら姉ェと、高崎の駅前で待ち合わせをした。あきら姉ェは、赤と黒の千鳥格子柄のショートコートに、キャメルのミニスカート。首からちらりと見える黒のタートルニットには、ハートが三連になったネックレス。笑う口元へ添えた右手には、小さな三連のリング。去年のクリスマスに、涼兄ィと啓兄ィにもらったと言っていたっけ。
「緒美ちゃん、今年のクリスマスプレゼントは何をもらったの?」
「アップルさんのスマホ!やっと買ってもらえたんだァ」
「わ、現実的というか実用的というか。そうだね、LINEするのもガラパゴスじゃちょっとしにくいかもね」
「あきら姉ェも持ってたよねスマホ、LINEのID教えてー」
「うん、もちろん」
冬の休日、高崎の街なか。晴れて空気が澄んだ駅前を目的のショップ目指して並んで歩く。走りゆく車が連れてくる冷たい風が、着ているベビーピンク色のダウンの襟元に入り、冷たさに首をすくめた。ふんわり笑うあきら姉ェは、とってもかわいいのに、どこか大人っぽい。涼兄ィの受け売りだけど、まわりの空気…えっと、オーラっていうの?それが、きらきらしているみたいだった。
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かわいいクルマの後部座席を埋め尽くす、ショッピングの戦利品たち。ランチのときも途中でお茶したときもたくさんおしゃべりしたけれど、久し振りに会ったあきら姉ェとまだまだお話したくて、私の希望で少しの遠出。
「わー、何だかすごく久し振りに来た気がするー」
「もしかして遠足とか?」
「あたり。たぶん、高校一年のときかも」
遠足に来たのは、確か春。その頃の赤城山はツツジがたくさん咲いていた。涼兄ィたちが夜になると集まっている駐車場にかわいい車を停めて、夕焼けの街並みを見下ろした。
「冬ってさー、すぐに日が落ちちゃうよね」
「夏のこの時間はまだ青空なのにね。今はすぐ暗くなるから、早くウチに帰らなきゃって思わない?」
「あーそうそう!友達と遊んでても、夏だったらまだ明るいから帰らなくて大丈夫って思うのに、今、外出て真っ暗だとすごく焦るの」
「門限やぶって叔母さんに怒られた?」
「うん、たまに」
「あははっ、啓ちゃんの学生時代とおんなじ」
「むー、啓兄ィと一緒にしないでよー。啓兄ィはしょっちゅうでしょ?私は『たまに』!」
四つ歳が離れているあきら姉ェと居ると、友達みたいに楽しいし、本当のお姉ちゃんみたいにやさしくしてくれる。いとこって、不思議な関係。
「あれ、あきらさんだ」
「マジ?ほんとだ、フィガロがいる。ちーす、あきらさーん!」
静かだった駐車場に、少し大きな音がいくつもやってきた。だんだん夕陽が沈んでいく。クルマのライトが煌々と目立つ。啓兄ィみたいに派手なクルマたちは、私たちから離れたところに停められ、ドライバーらしき男の人たちが手を振りながらこちらに向かって歩いてきた。
「走り込み?にしては早すぎない?時間」
「冬は夜になるの早いっスからねー、この時間に走ってる一般車は夏の半分以下っスよ」
「だからいつもより早く始められるんす。いっぱい走らねェと啓介さんに追い付けねーもんなー」
「だよなー。っつかあきらさん、今日はふたりっすか?妹さん…じゃないか」
少し軽そうなチャラチャラした男の人たちが、ちょっと怖かった。けれどあきら姉ェの知り合いみたいで、大丈夫、と手を握ってくれた。
「この子はいとこの緒美ちゃん。私たちの妹だから手ェ出したらぶつからね」
「うわ、あきらさんがキレたらハンパねェですって」
「ちょっと、どーいうこと」
「啓介さん言ってましたよ、アネキは怒るとアニキ以上だって」
「もう…、何てこと言うのよ啓ちゃんたら」
「あきら姉ェ?」
「あのね、この人たちはお兄ちゃんのチームメンバーだよ。悪い人たちじゃないから安心して緒美ちゃん」
「あきらさんもイトコちゃんもホントかわいいっスよねー、マジ羨ましいですよ涼介さんたち」
「ほらほら、せっかく早く来たんでしょ、走らないと」
「はーい。気を付けて帰ってくださいねあきらさん」
「えっと、緒美ちゃんだっけ。また赤城に来てねーばいばーい!」
「ば、ばいばい…」
すっかり暗くなった赤城山。でも、まだお夕飯時には早い、そんな時間だった。大きな音を再び上げて、派手なクルマが一台ずつ、いなくなっていく。
「ふふっ、びっくりした?走り屋くんたちだよ」
「なんか、今の人たち啓兄ィみたいだね」
「彼らは啓介を慕ってるから、だんだん似てくるのかな。いっぱい遊んだし、もう帰ろっか?」
さっき繋いでくれた手は、ずっとそのまま。静かになった駐車場に、あきら姉ェと私のブーツのカカトの音が重なった。
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「おかえりあきら、緒美」
「涼兄ィ!ただいまっ」
お買い物した荷物の整理も兼ねて、高橋のおウチで少し休んでいくことにした。玄関で出迎えてくれたのは、珍しく上下スウェット姿の涼兄ィ。ブーツを脱いで抱きついたら、涼兄ィからコーヒーのいい香りがした。
「ほら、あきらも」
「うん?」
「おいで」
「……え、」
「いつもしてるだろう?さあ」
腕を広げて準備万端な涼兄ィだけど、あきら姉ェはブーツを脱いだ先、動こうとしない。顔が真っ赤になっていてかわいかった。
「……いつも、じゃないもん」
「『お兄ちゃん、ぎゅってして?』って甘えてくれるじゃないか」
「う…言わないでよ、緒美ちゃんが見てるのに…」
しぶしぶ、腕を伸ばすあきら姉ェは、さっきまで見ていた『歳上のお姉ちゃん』じゃなくて、お兄ちゃんが大好きな『かわいい妹』の顔で、負けました、と涼兄ィの胸へ納まった。
「あきら、冬の匂いがするな。寒かったろ」
「風がね、冷たかったの。夕方、赤城に上ったんだよ」
「ああ、頬がヒンヤリしてるな。緒美、赤城の景色はどうだった?」
「夕焼けすっごいキレイだったよー、久し振りに行ったけどなかなかいいトコロだね」
自分が通っている山を良く言われて嬉しいのか涼兄ィは小さく笑って、あきら姉ェの腰に腕をまわし、私の肩を抱いて、リビングへ誘った。と、そこにいたのは、膨れっツラの、もうひとり。
「あー!啓兄ィ!今までどこにいたのー?」
「うっせーのも一緒かよ、ったく」
「ただいま啓ちゃん。今日来てくれたらお姉ちゃん嬉しかったのになー」
「だってジャマなヤツいるじゃん。アネキとふたりだけだったら全部投げ出してでも行きてェのに」
「ふふん、残念でしたー。今日のあきら姉ェは私だけのお姉ちゃんだもん」
「お揃いのお洋服いっぱい買ったんだよ。楽しかったねー緒美ちゃん」
「お揃い、だと?」
「あ、涼兄ィ、見たい?見たい??すっごいかわいいの見つけたんだァ、あきら姉ェ、着てこよ!」
「ええッ!ちょ、緒美ちゃん!」
あきら姉ェの腕を取って、リビングを出て二階へ上がる。ズルいくらいいつも一緒にいる兄弟へ『お揃い』を自慢したくて、ちょっと強引だったかもしれないけれど、あきら姉ェの部屋まで来てブランドショッパーの封を開けた。
あきら姉ェは、大学とレースのお仕事の両立で、涼兄ィみたいに忙しい人だ。だから、こうして一緒に過ごして、一緒にお出かけするなんて、大袈裟かもしれないけれど本当、奇蹟なんじゃないかってくらい久し振りだった。ご近所に住んでいるのに、なかなか会うこともままならない。お母さんからの頼まれものを持って行ったときも、大抵在宅しているのは啓兄ィだ。
私だって、大好きだもん。涼兄ィや啓兄ィが想う気持ちとおんなじだよ、私もあきら姉ェがとっても大事。だから、ちょっとくらい独占させてね。『お揃い』は、その証なの。
「じゃーん!かわいい?」
「ね、コレふたりで一目ぼれだったんだよね」
「えへへ、似合う?涼兄ィ」
「ああ、とても。あきらも緒美もかわいいよ、最高じゃないか」
「緒美はともかくなんでアネキも白なんだよ!納得いかねーよオレは!」
「だって…白くてかわいかったんだもんワンピース…啓ちゃん、似合ってない…?」
「う…ッ、いや、かわいい、けどょ…」
「ほんと?よかったァ」
「ふっ、残念だったな啓介」
「あとねー、これは色違いでねー、ファーのティペット買ったんだよ。私がピンクで、あきら姉ェがオレンジ!」
「お正月で一緒に着る約束したんだよ。楽しみだねー」
「ってケンタじゃねぇかァアア!」
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プロDが始まる前の冬、お姉ちゃん大好き緒美ちゃんのお話でした。彼女を登場させたのはこのお話が初めてです。予定としては長編への出演が先だったのですが…あちら遅くてすみません。そして残念な啓介でした。
2013,12〜2014,4
おまけ
「赤城で誰かに会ったか?」
「あ、うん、レッドサンズの人たち。101レビンとS14と180かな、夕方、って言ってももう真っ暗だったけど。がんばって走り込んでたよ」
「へー。アイツらそんな早くから走ってんの」
「駐車場で会って、緒美ちゃん見て『かわいい』って。手ェ出しちゃダメって言っといた」
「あきら姉ェだって言われてたじゃないー。あの人たち、あきら姉ェと一緒に居る涼兄ィたちが羨ましいってさ」
「ふ、そうか(アイツらに難題でもくれてやるか)」
「ふーん(今度会ったら焼き入れてやろ)」
おしまい!
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