今年いちばん


青いイルミネーション 

まるで冬のホタル

今年いちばん寒い夜 

僕のとなりに 

となりに君






年が明け、10日ほど経った、日曜日。


良く晴れたこの日、艶やかな装いを纏い、幼い頃に通った校舎へと。

随分久しぶりに来たそこは、一歩入るだけで当時の空気が蘇り、思い出が一気に戻ってきた。




成人の日




高校を卒業して群馬を離れた咲は、約3年振りに帰省した。

成人式、堅苦しい挨拶を除けば、あとは盛大な同窓会だ。

暫く振りに会う友人たちには昨日のうちに連絡し合い、今日はみんなで騒ぎまくる。そんな予定だ。





2日ほど前、当時の生徒会長から連絡をもらった。

高校までずっと一緒の学校だった彼は、変わらない、落ち着いた声で。

午後から始まる成人式、咲が開始より少し早く会場に着いた理由は、彼にあった。






帰ってきてるなら会わないかと言われたので、丁度その日は着付けの打ち合わせがあるからそれが終わってからと返事をし、午後から会うことになった。


前橋駅前。


大学で用事を済ませて向かうから待っていてくれと言われた場所。

今着いたよと彼にメールを送り、彼が入ってくるだろう駅のロータリーで待っていると、何やら低く唸る白いスポーツカーが。


「ステッカーいっぱい貼ってある……走り屋ってやつ?」


どんな人が運転しているのか、やっぱり気になってしまうもので、咲の目線は、ハンドルへと。


「……って、涼、介?!」


ロータリーに乗りつけて、ドライバーボックスの窓が開いた。


「すまん咲、待たせたな」

「う、ううん、平気。でも、ちょっと驚いた」

「ん?…ああ、車か?コイツのことは、ドライブしながら話すよ」


言いながら車から降りた涼介は、助手席へ私をエスコート。


「シート少し低いから、頭、気を付けて」


どうぞ、と、手を添えられた。


「ありがとう、涼介」






『咲』と『涼介』


小学校からずっと共に過ごしてきた二人だからこその、名前で呼び合う、信頼関係。



「元気そうだな、咲」

「涼介もね。さっき車から降りたとき、男らしくなったなぁって思ったよ」

「はは、そうか」


ハンドルを握る涼介は、昔と変わらない、優しい笑顔で


「北海道は慣れたか?」

「うーん、冬の極寒はまだ慣れないかな。でも、良いところだよ、気に入ってる」




涼介は、群馬大へ

私は、北海道大へ




「まだまだ遠そうだよ、動物のお医者さんへは」




お互い医学の道へ進んだ、3年前の春。

初めて、私たちがふたつに分かれたときだった。



「涼介は?医学部、忙しいんじゃない?」

「それは咲も同じだろ。適度に息抜きしながら何とかやってるよ」

「息抜き?」

「コイツ、さ」


ハンドルを握る右手、指でトントンとそれを叩く。


「車の世界に、どっぷりと」

「走り屋ってこと?白いスポーツカーに涼介が乗ってると、なんだか白馬の王子サマみたいね」


私の比喩に、彼はまた、やさしく笑った。








小学校の体育館で行われた成人式が無事終わり、会場を移動しての二次会パーティー。

当然涼介もそこにいて、学生時代から変わらず人気を博し、複数に囲まれていた。


(あ……ちょっと、迷惑そう)


少し、嫌そうな、面倒くさそうな空気を出しているようで。


「私、向こうでドリンク取ってくるね」


仲良しの友人たちから離れ、涼介の元へ。


(咲さまが助けてあげようじゃないの)




「涼介?涼介じゃない!久しぶりー!」

「……、咲か?高校卒業以来だな、元気だったか?」




何と態とらしい会話だろうか。

おかげで多数の輪から抜け出せたけれど。






「あはははは!あーたのしー!」

「何が久しぶりだ、さっき会ったばかりだろうが」


助かった、と、涼介は咲にグラスを渡す。



二次会会場になっている、ホテルのバンケットホール。

バルコニーで、アルコールを摂っていないはずの火照った頬を冷ましていた。


「総代、カッコ良かったよ、生徒会長殿」

「咲のピアノも見事だったさ」

「まさかこの歳で小学校の校歌を弾かされるとは思わなかったけどね」


2日前に涼介が連絡を寄越したのは、成人式での役割を私に伝えるためだった。

幼い頃からピアノを習っていた私は、校歌斉唱にて伴奏を頼まれた。練習、必死だったけど。

式の開始より早く到着していたのは、役割の打ち合わせがあったから。

新成人代表挨拶の涼介も、然り。



「……言うのが遅くなった。振袖、良く似合ってるよ」

「そう?嬉しいな、ありがと」



冬の冷たい風が、今は丁度良い。



学生のころ、当たり前だった涼介の隣。

お互い何かと忙しい身で、昔から『カレシ・カノジョ』は傍にいなかった。

私たちに恋慕もなく、ただ、一緒にいるだけで、気が解れた。

長年一緒にいる所為か、『親友』の域も通り越している気がする。

心地良い、場所だった。




それだけに、このあとの涼介には、戸惑ってしまう。







「……抜け出すか、ここから」

「え?」


ちゃり、と、スーツの胸元から、シルバーのキー。



「あれだけ賑わってるんだ、俺たちが抜けても、誰も気付かない」

「涼介……」





「二人になりたい、と言ったら、怒るか?咲」








日中はお祝いの言葉で溢れていた小学校も、今は誰もいない。

校舎も、バックスタンドも灯りはなく、街灯の光だけ。

涼介の車(FCって教えてくれた)を降りた私たちは、グラウンドをゆっくり進む。

もうすっかり、夜になっていた。



「気付いたのは、高2のこの頃だったかな」


足を止め、話し出したのは、涼介が先で。


「進路を正式に決めて、志望校を絞り出して」



(私、獣医になる)

(俺は、親父の意思を継ぐよ)

(道は同じ、だね)

(険しいだろうな、お互い)



「北海道大の獣医学部に行くと、教えてくれたとき」



冬なのに、とても暖かな1月。

晴れた屋上で、涼介と話した、あのときの、



「ああ、離れていくんだ、って思った」



夜風に晒された涼介の指が、私の頬へと



「離したくない、って思った」




何枚も衣を羽織った肩を、涼介の広い腕で包まれた



「遅すぎた、かな」




戸惑ってる

本当はもう

君と出会う前の自分には

戻れそうにない





「好きだ、咲」





「わ、たし……、」




遅すぎたの

早すぎたの

なぜ今頃ごろ君は現れたの





「群馬に帰ってこい、とは言わない。俺の想いを、ずっと伝えたかった」



「涼、介」



「獣医になる夢を叶えたら、考えてくれないか。俺のことを」




闇に紛れ

街灯の灯をよけて

夢覚めるまで







「……駅まで、送っていくよ。乗って」




歩こう、短い夢















(若先生、面会の方が受付にお見えですよ)

(誰かな、今日はそんな予定はないはずだけど)

(『動物のお医者さん』だと伝えればわかると仰ってましたが…?)

(……すぐに行く)








(ただいま、涼介)

(おかえり、咲)






end





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咲さまへ

この度は1000hitリクエストにご参加下さいましてありがとうございます。以下反転でお返事です。


おぉおおお待たせして申し訳ございません…!!!!!クリスマスまでにすべて書き上げる予定がこんなにもこんなにも遅くなりまして何とお詫び申したらよいのか…!!!

切甘…切ないと甘いの比率はどんなもんでしょうか…ちょ、なんとも言いようのないラストになってしまいましてすみません……orz


補足で申し訳ないのですが、涼介さん&ヒロインちゃん=20歳。そう、香織さん絡みの頃なんです。だがしかしアレコレなしで書かせて頂きました。ご了承下さい。

涼介さんは彼自身夢追い人なので、ヒロインちゃんの夢も応援したいんです。叶えてほしいから、自分のことは後回しでいい。けど、いつか、俺のことを想ってくれ、ずっと待ってるから、という感じで。遠距離片想い?いや、想われたいですね、わたしも←

せつあまー!と念仏のように頭で繰り返しながら書きました産物であります。途中言葉が出てこなくてもーアタマBLACKOUTしそう\(^o^)/時期も時期なので、成人式合わせで。


咲さま、素敵なリクエスト頂きまして、本当にありがとうございました!

2013,1,10りょうこ