たとえばリンゴが手に落ちるように


高崎駅から徒歩5分圏内なのに、なんでアシにされなきゃいかんのだと文句を垂れつつも、FDに火を入れて国道を走る俺は、相当惚れてるんだろうと苦笑した。

アイツと付き合って3年目。また、酔い潰れる日がやってきた。


酔いどれ姫を迎えに、黄色い馬車で参上してやろうじゃねェか。











クリスマスパーティ、兼、忘年会。

啓介と大学の同期生である至が所属している、カメラ同好会主催の恒例行事。

自分たちが今年一年間で撮った写真を、貸し切った飲み屋のスクリーンへひとりずつ映写していく。

これぞと思ったファイルを1本のUSBメモリに編集してミニアルバムを作り、上映会をするのだ。

これも、毎年の恒例で。



至が被写体に選んだのは、もちろん、










「おい、至いるか」


「来たあぁあああ啓介くぅううん!!」


「FD王子イィィ!!」




………なんだこの惨劇は



至を迎えに行った飲み屋は、俺の部屋以上に荒れていやがる。

つーか勝手に撮るんじゃねェ!



「高橋くん、こっちこっち」


「悪ィ、連絡くれてサンキュな」



何度か会ったことのある至の友人に呼ばれた。

『姫を迎えに来い』と至のケータイから俺に電話してきたのも彼女で。



「毎年ごめんな、ウチのが迷惑を」

「ふふっ、それ、熟年夫婦みたいね」

「ほっとけ」

「至ー、起きて、愛しの王子が来たよー」




「…………かー…………」





こいつァ……




「なんつー、アホ面だよオイ」

「結構いいペースだったわよ、飲むの」

「『駅前の飲み屋だから帰りはひとりで大丈夫』っつってたんだがな」

「飲み代は事前に徴収してるからこのままお持ち帰りしちゃってよ」

「へいへい」



ソファ席に横這いになり、真っ赤な顔でくうくうと寝息をたてていた。

どんな夢を見てるのか、幸せそうな顔で。



「至、」


頬を弱く叩いてみた。


「オイ」


ちょっと強く叩いてみた。


「コラ」


抓ってみた。



………………このやろ




「お・き・や・が・れ!」

「うおぉ!!なっなに!!??」



思いっきり肩を揺すってやったらやっと起きた。



「よーぅ、迎えに来てやったぜオヒメサマ」

「け、いすけ、くん……?!」

「至、もう帰っちゃいなよ、王子の機嫌が損なわれない内に」

「は?!王子?!どーいうこと?!」

「そーいうことだ。もらってくぜー」

「え、ちょ、きゃぁああ!!」



うとうととしていたはずが、どうやら深く寝ていたらしく、急に起こされたら目の前には愛しの人。

そして、たっぷり飲んだアルコールがすぐに抜けるワケもなく、酔いが回って動けない身体を横抱きされた。



「き、急に動かさないでください…酔いが…!」

「黙れこの酔っ払い」


横抱きされたまま、耳元で低いウィスパーボイス











「大人しく俺に抱かれてろ」










(それ…反則です……)










「あ、高橋くんちょっと待って!」


大事な忘れ物、と、少し重みのあるものを渡された。


「すっごく良かったよ、至が撮った高橋くん」


至の愛機、キャノンx5だった。


「じゃーね、良いお年を」

「おー、いろいろありがとな」















動けない至をFDに乗せ、飲み屋を立った俺たちは、一路、一人暮らしをしている至のマンションへ向かっている。



「ところで……、駅前だからひとりで帰れる?動けないほど飲んだヤツが言えるセリフか?」

「すみません……」

「…………お前、確信犯だろ」

「……!」

「明日、朝早くに大学に用事があるんだっけ?確かレポート提出がどうとか?」

「………」

「大変だなー、もう冬休みだってのに。ま、俺はレポート終わってるから行かなくていいけど?」

「………」

「迎えに来てもらって、そのままマンションに泊まって、朝大学まで送ってほしーなー。そんなトコだろ」

「………」

「至、」

「…………………お、おっしゃるとおりで、ござい、ます」













「このあと、覚悟しろよ」








赤信号、

FDの中で、


突然のキス



見つめられた切れ長の瞳が、街灯のイルミネーションとはまた違う煌めきを放った。














昨日のお酒が、まだ身体中に残ってる感じ。

ああ、これが俗に言う二日酔いってヤツね。

二日どころか三日四日と続きそうよ。

それに、腰が、痛いんです。




「……ん…、至…?」

「おはよ、けいすけ…」

「………すげー、ぶっさいくな顔だぞ、お前」

「寝起き早々なんて失礼なヤツ」



シングルベッドに、ふたり。

冬の寒い朝に、愛しの恋人とくっついていられる至福。

でも、飲んだ翌日は顔がハンパなく浮腫むから、あんまり見られたくない乙女心。



「目、すっきりさせたいからシャワー、浴びたいんだけど」

「一緒に入るか?」

「………腰が、いたくて」

「ん?………あ、昨日、わり、ちょっとやりすぎた」



謝ってるのに、なんだこの嬉しそうな顔は。

おまけに寝起きだからか妙に幼く見えるし。

……くそぅ、かわいいんだから。


とりあえず時間も迫ってきてるので、冷たい水で顔を洗い(凍える!)、なかなか動かしにくい身体を漸く動かして身支度をし、マンションを出た。



「うう…FDちゃん、もっと、静かに走ってえぇ」

「『ちゃん』呼びはやめろ頼むから」

「世のサラリーマンたちは週末になるといつもこんな苦しんでいるのね」

「ウコン飲めウコン」

「あー……わたし当分お酒はいいや…」

「そうしてくれ」



日を跨いでもまだまだ『酔いどれ姫』な至と、大学まで朝のFDドライブ。

出来るだけ凸凹の少ない路面を選んで走った。

ナビのコイツは、どうせ、気付いてないと思うけど。

こうやって、至のアシにされることも、本当は嫌いじゃないってことも。





「ホラ、着いたぞ」

「ありがとう、ごめんね、昨日も…」

「気にすんなって、









お礼は、イタダキマシタから」




FDのノブに手をかけて、外に出ようとしたとき、



「け、すけ…!もう!」



背中を浮かせたはずのナビシートに、再び、沈められた。







「昨日みたいに、酔って積極的な至も好きだぜ、俺」



「……っ、いってきます!!」




真っ赤な顔で、走って出て行った。



あーあ、フラフラして。



「………かわいいやつ」









私物を至のマンションに置いてきたことを思い出し、帰りに取りに戻った。

彼女から預かっている合鍵でオートロックを開け、ややアルコールの香りが残る部屋に戻ってきた。





(そういや昨日…)





『良かったよ、至が撮った高橋くん』




ベッドの傍らに置いたx5を手に取り、至に教えてもらった通りに電源を入れた。

三角マークの再生ボタンを押して、ページをめくっていく。



「………すげ……」



USBメモリに編集する前の、膨大な数の写真たち。

すべて、プロジェクトDで戦ってきた、啓介の勇姿だった。

車だけでなく、啓介や拓海の後ろ姿や、ステア、ペダル、いろんな角度で撮ってある。

ドライバーの顔を写さないことを条件に、撮っていいかアニキに訊いてたっけ。

Dの軌跡になるからと、快諾してたよな、アニキ。




「………これ、いいな」




啓介の手が止まったところ




埼玉戦は、自分にとって、大きく成長できた大事なバトルだった

大きな羽根を付け、新しくなったFDをシェイクダウンした、夜の赤城


太陽の名を冠した車が、咆哮を上げて月夜へ走り出した瞬間を捉えたものだった







「ったく、至め」






このときまで撮ってたなんて、聞いてないぞ俺は





「嬉しいモン、撮りやがって」







今頃、フラフラになってレポートを頑張ってる、愛しいきみに、ラブコールを









To>至
Sub>Re:Re:Re:
――――――――――

帰り、迎えに行く


そのあと、デートすっか?








(写真のお礼は、きみへのクリスマスプレゼントを)



end






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至さま

この度は1000hitフリーリクエストにご参加くださり、ありがとうございます。以下反転でお返事です。


お待たせしてほんっとうに申し訳ござません……!!!

【具合の悪い彼女=酔っ払い】にしてしまってすみません……忘年会シーズンですので…どうでしょうか…

あの、もしご要望ございましたら何なりと仰ってくださいね、酔っ払いは嫌だとかでも大丈夫ですから!←


啓介は『好きな子ほどいじめたい』タイプだと思います。基本優しいんですけど、好きな子にはヤンチャしたいんですよ、酔って叩き起こすもの愛です!

至さまも年末年始、飲みすぎないようご注意下さいませ(未成年さんでしたら飲んじゃ駄目ですよ!)

………でも啓介が介抱してくれるなら家主は酔い潰れたいですキリッ



余談失礼しました。

素敵で楽しいお題を頂きまして、本当にありがとうございました!

2012,12,24りょうこ