melt
言葉は冷気に姿を消して
氷が言葉を閉じ込める
そして空虚な夜が訪れることを知る
でも誰にも私の心を溶かすことはできない
「……なんでインプなのよ」
「なんで、つってもなぁ」
「乗りやすいワゴンにするんじゃなかったの」
「乗りやすいぞコイツ」
「とはまったく見えないけどね!なにこの羽根!ターボ!もろ『それ』っぽいじゃない!」
「気が変わった」
「……結局お父さん、ラリーの血が抜けてないんじゃない」
「文句言ってねェでさっさと配達行け」
「いい加減免許取りたいんだけどな」
「はいはいその話はまた今度」
「また流されたしー…もー、いってきます」
夏、朝4時
薄らと朝靄がかかる秋名の山道を、まるで日中の空のように鮮やかな青が駆け上がる。
綺麗な空のスクリーンの隙間から、太陽がちらり顔を出した。
うん、どうやら今日のお天気は晴れの見込み。
青空の中、窓を開けて走る秋名も好きだけど、きらきら光る朝靄を割くように走るこの時間が、特に好きだ。
ただ、今日は違っていた。
弟の拓海と一緒に使っているいつものハチロクではなく、
黄金のホイール、社名を象徴するブルーマイカ
スバルが誇るSTi、インプレッサWRX
それだったから
「………なんで、インプなのよ」
もう、思い出すことなんて、ないと思ってたのに