snow


「た、か、は、し、きゅん!」


「………」


「ちょ、ま…、待てよ涼介!」




ゼミで毎日顔を合わせる友人の声が聞こえたが、完全無視。

一瞬歩みを止めた涼介だったが、呆れてスタスタと廊下を進む。



「酷いなあ涼介さまー、こっち見てもくれないなんて」

「何か用か岡田」

「合コン行かn「断る」………」



この岡田という男、伊達に高橋涼介と同じゼミ、同じチームで研究をしていない。

ここで諦めるほど、冷めた男ではなかった。

いかなる研究、いかなる議題であっても、納得のいくまで追求し、答えを出す。



「ちょうど一人足りないんだよ、お前来てくれたら女の子も喜ぶぜー?」

「そんな誘い文句は今までイヤというほど聞いてきた」

「『涼介も来る』って言っちゃったもん俺」

「俺は別に女子たちを喜ばせたいとは思わない」

「助っ人で来てくれるなら飲み代いらねーし」

「行く気がないし今日は飲む気分でもないな」

「相手の子たち、教育学部なんだよ、カワイイ子いっぱいってウワサの!」

「……教育学部?」



廊下を歩きながら話す、男二人。

相手の学部を聞いた涼介の足が、ピタと止まった。


(そう言えば確か…)













「俺、実は姉がいるんです」






プロジェクトD最終戦を控えた晩夏、高橋家のリビングでの打ち合わせにて、藤原が話す。

神奈川が走り屋の聖地と知った藤原は、「アネキ行きたそうだなあ」と漏らした。

それを切欠に、あれよあれよと藤原家の話にもつれ込む。


「いくつなんだよお前のアネキ」

「22歳ですよ、次の春で大学卒業です」

「どんなお姉さんなんだ?」

「俺と逆ですねー、社交的で明るくて…その性格だからか、学校の先生になりたいって勉強してます」

「逆ってお前、ハッキリ言うなよ」

「啓介さんみたいな感じかな、子供にすっごく好かれるんですよ」

「俺はガキと同レベルか」

「人を惹きつける魅力があるんだな、藤原のお姉さんは」

「昔から車が好きで、小さい頃、親父の助手席乗ってはしゃいでたの覚えてます」

「藤原文太のナビ…めちゃくちゃ羨ましいぜ」

「今は俺と交互に配達やってますよ、アネキ無免ですけど」

「弟だけでなく姉もか」

「あれ……涼介さん、群大でしたよね?」

「ああ」

「同じです、アネキ。教育学部の四年生ですよ」















「岡田」

「なんだよ」

「行こうかな、それ」

「ふーん…………………は?」

「教育学部、カワイイ子いっぱい、なんだろ?」

「まじで言ってるの高橋くん」

「日時と場所、また教えてくれ、空けておくから」







彼女が来るとは限らない。

同じ学部の生徒なら、どんな人物か聞き出せるかもと思ったんだ。

あの、『藤原拓海』の姉に、興味がある。