10:00
「…あの…言い出しっぺは誰なんですか…」
「あそこのひよこ頭に訊いてちょうだい」
夏というには遅く、秋というにはまだ早い季節。広大な草原とカラフルな花たちに迎えられ訪れた、栃木県は那須高原。草原から少し離れた場所にあるアスファルト敷きの駐車場には、見知った派手な装いの車たちがずらり。控えめな性格からかなるべく端っこに停めようと意識したつもりでも、『全勝ダウンヒラー』である豆腐号はすぐに皆に気付かれ、わいのわいの騒がれている。ちょっと迷惑そうに思っていても、自分の愛車を褒められて嫌になどなれず、照れ笑いをする拓海だった。
同じチームの拓海さえ知らなかった、言い出しっぺ=啓介が企てた催し物。『マジで忙しくなる前に全チーム誘って大宴会やろーぜ』という、先方たちの予定を訊かずして始まった計画だった。プロジェクトDでは、こちらが敵地へ乗り込んで戦う謂わば道場破りのようなものだったけれど、今回はこちらがホストとなって彼らを招き、楽しんでもらえるようセッティングした。その啓介、そして涼介はというと、続々と集まってきたライバルたちに事の概要を話している最中である。『もし時間があれば手伝ってくれないか』と涼介に言われたのは先週、レースが終わった日曜のことだった。予定の宴会は、ちょうど中休みに当たる週末だったため、あきらは了承の返事をしたのだが。
「まさかほぼ全員集まるなんてね…Dの決戦じゃないんだから」
啓介の突然の思い付きに、わざわざみんな予定を空けてくれたのかと思うと何だか申し訳なく思えてくる。三連休始まりの土曜日。良い天気に恵まれた那須高原で、大規模なバーベキューが始まろうとしていた。
涼介に頼まれた『手伝い』とは、主に食材に関わることだった。調達は史浩を中心に行い、あきらは現地での下ごしらえを担当する。そのため、集合時間の10時に現地入りでは間に合わず、朝7時には那須に到着していた。ホストであるDのメンツも予定より早めに到着し、開催準備に余念がない。野菜を手頃なサイズに切ったり、食器の用意をしたり、テキパキと動くあきらの姿に自分も手伝うと声をかけた拓海がふと思ったことが、冒頭の言葉だった。
「なんか、さすがというか…啓介さんが声をかけたら、みんな集まっちゃうんですね」
「(それは拓海くんも同じだと思うよ…)走り屋の繋がりをなくしたくないんじゃないかな。なんだかんだ、みんな仲良しなのね」
「アネキとふじわらー!こっち来てくれー!」
啓介に呼ばれ、炭火焼きの準備をしていたふたりは手を止め、皆が集まる場所へと駆ける。改めて見遣ると、圧巻の人数だった。
「知らないヤツもいるかもしんねェから言っとくわ。オレのアネキ。今日手伝ってもらうことになってんだ」
「改めて自己紹介しておくか?あきら」
「あ、はい。涼介の妹で啓介の姉の、あきらと言います。今日は楽しんでいって下さいね」
主に神奈川勢から『知ってるぞー』と言われ、なぜかパチパチと拍手をもらってしまったあきらは、はにかんで笑みをこぼし、会釈をした。
「さて、そっちの準備の状況は?」
「拓海くんが手伝ってくれたおかげでもうOKだよ」
「オレは運んだだけで…あきらさんに全部任せてしまってすいません」
「いいえー、私じゃあの量は運べないもの。ありがとう拓海くん」
うふふあははとほわほわした会話を面白くなく見ていた主催の弟が、ワザとふたりの間に入り、大きく息を吸いこんだ。
「っしゃー!存分に遊んでってくれよー!始めっぞォー!」
北関東大宴会、スタート5秒前。
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