夢駆け作者、創作世界へ行く(2)

■ ■ ■

 ちょっと待ってほしい。私は頭を抱える。いや、本当にちょっと待ってほしい。作者さん、とは。そもそも、起こったことが起こったことである。

「……なんだ夢か」

 私がそう結論を出すのは仕方ないと思うのだ。だって考えてほしい。いきなり目の前の青年が少年に変わるとか。自分の格好が中学生の制服になるとか。あるはずの家がなく空き地に変わるとか。夢でしかありえない体験だ。なるほど、これが明晰夢という奴だろう。私は今まで明晰夢なんか見たことがないためよく知らないが、確か夢であるという自覚があって夢を見ている状態であるが故に夢を自分の好きなものに変えれるものではなかったか。

「説明すんのも面倒くせーし、もうそれでいいよ」

 少年は呆れ半分面倒くささ半分という表情で告げる。ほら、とまた腕を掴んで彼はまた歩き出した。

「どこ行くの、少年」
「俺の隠れ家」
「隠れ家?」
「この年でウロウロしてたら補導されるんだよ。補導されたら厄介だからな」
「厄介?」
「アンタ、今の状態……わかってねぇんだよなぁ」

 彼はそう言って深い深いため息をつく。とりあえず、こっち、と彼はそのまま住宅街の中を進み始めた。


 夜の住宅街は静まりかえっていた。街灯がところどころ道を照らしているだけで人通りはほとんどないと言っていい。街並みは大人になった私が普段見ている街並みではなく、かつて中学校だったころの私が見ていた街並みだった。商店街近くの通りには店主が高齢だったため潰れてしまった駄菓子屋も、大型書店ができたため潰れた個人書店も、新しく開店したばかりのケーキ屋もある。まぁ夜のために全てしまっているのだが。そういえば、塾の帰りこういう道を通りながら空想に耽っていたことを思い出す。静かな街を突如切り裂くようなサイレンがなり、たくさんのパトカーが彼らを追いかけていくのだ。彼らがくると静かな街が騒がしくなる。闇夜をかける彼らの逃走経路を自転車に乗りながら考えていた。まぁいわゆる黒歴史というものに近いのだが。

「何考えてんだ?」

 少年はそう言って私をみた。私は周りを見ながら口を開く。

「昔、この道を通りながら話を考えてたなーって思って」

 私の夢ならば彼は馬鹿にしたり、後ろ指を刺したりしないだろう。だから素直に私は答えた。彼は案の定私を見て首を傾げる。

「話?」
「五人組の怪盗の話でさ、こういう静かな街を賑やかに変えていくんだ。考えてる時、すごい楽しかったなぁって思ってさ」
「五人?」
「私の友達だったり当時身近にいた人で考えてたんだけど、まぁ中学生が想像するのにありきたりな設定というか」

 好きなアニメや漫画の影響もあっただろう。なんでも切ってしまう刀の達人、未来を夢で予知できる超能力者、殺し屋とその主人である武闘家、お調子者だけど仲間思いの主人公の怪盗。そう登場人物を並べていく。

「世界がそうだったら楽しいのになとか、信じてたらそうならないかなって当時は考えてたんだけどね、現実はそうはならないや」
 大人になって嫌なほどわかった。

 私の言葉に彼は足を止めた。そうして振り向いた彼はどこか泣きそうだった。どうしたの?と問いかけようとして、私はやめる。私は彼を見たことがある。同級生だったような気がするけれど、そうじゃない。彼は私を作者と呼んだ。もしかして彼は。

「ケイマ」

 私は主人公の怪盗だった少年の名を呼ぶ。かつての同級生から拝借した名前だ。

「君はケイマ?」

 私の問いかけに彼は頷いた。夢だからだ。きっと明晰夢だから彼はそうなったんだろう。それでも私は彼と会えたことが嬉しかった。当時思い描いた叶うことがないことだからだ。ふはっと笑ってしまうのは仕方ない。忘れてしまったわけではないのだ。もうあの頃のように彼らの話は書けないだろうと思っただけで。

「久しぶり、ケイマ。元気だった?」

 私の問いかけに彼は深呼吸するように大きく息を吸った。

「……全然元気じゃねぇよ、ば――か!!」

 その声は静かな住宅街に思ったより響く。近くの窓が空いて知らない人が顔を出した。うるさいぞ!さっさと帰れ!と怒った彼に私とケイマは顔を見合わせる。二人してスイマセーンと謝って、彼はまた私の手を引いて歩き出した。彼の隠れ家に向かうのだろう。隠れ家。あの頃に考えた隠れ家。私は年甲斐もなくワクワクしながら彼の隣に並んだ。これは間違いなく良い夢だ。

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