──クロの本丸。
さてさて、近侍としてクニも引き連れてクロちゃんの本丸にやってきたわけだけど、まだ庭に来ただけなのに中から騒がしい声が聞こえてくる。彼女の刀剣たちも一部を除いて外の木陰に避難しているようだ。
水場で水分補給していた加州清光が俺たちの存在に気づき、苦笑しながら駆け寄ってくる。
加「良かった、来てくれた!二人とも暑いのに呼び出してごめんね」
『いや、俺は翡翠の道連れだから気にしないで』
翡「で、どんな状況だ?」
加「うーん…。まぁ見てくれればわかると思うよ。まずは主の救出を最優先にお願いしたいかな。俺たちじゃダメだったんだ」
どうぞ、と本丸の中に通され、騒ぎの中心へと歩を進める。
ほんと煩いな。耳がキンキンする。でも瑠璃だけの声じゃないな、これ…。
『この騒いでるのって瑠璃と?』
翡「シロネコだろ?」
加「そ。うちじゃシロじゃないと瑠璃に太刀打ちできないからね…」
『あぁ〜…』
シロちゃんか。確かに瑠璃に太刀打ちできるのは翡翠以外にはクロちゃんの妹、シロちゃんしかいないだろう。しかし彼女は呼吸器官の異状でずっと入院していた子だ。あまり無理はさせられない。
加「主はシロも退室させた方が良いって言ってたんだけどさ、あの二人のやり取りに口を挟む隙が無くてね…」
翡「だろうな」
加「やり過ぎ注意ってことで万が一の為に安定が一緒にいるよ」
彼女たちがいるらしい部屋に辿り着き、加州は俺たちに目配せするとゆっくりと障子をスライドさせた。
瑠「ねークロ良いでしょ!?海行きましょうよ海ー!!」
クロ「瑠璃、耳元で叫ぶな煩い」
瑠「じゃあ行きましょう!!」
シ「何が"じゃあ"なのよ!嫌がってるでしょ!?クロから離れなさいよ馬鹿瑠璃!!」
瑠「うーーみーー行ーーこーーうーーよーー!!!」
シ「うるっせぇわボケ!!!」
大和「シロ、そんなに声出しちゃダメだって!抑えて抑えて」
クロ「…………」
『うわぁ…カオス……』
翡「託児所かここは」
加「託児所より酷いんじゃない?主が完全に保母さんだよね…」
クロちゃんを後ろから抱き締めるようにして揺さぶっている瑠璃と、引き剥がそうと頑張っているシロちゃん。文字通り板挟みになっているクロちゃんはもうゲッソリなんてもんじゃない。
クロちゃん、中身どこかに飛んでってない?
息してる?
薬「!来てくれたか翡翠」
部屋の前で立ち尽くす俺たちの方へ来た彼女の近侍、薬研くんは申し訳なさそうに眉を下げる。
あれ、薬研藤四郎って黒髪ストレートの筈だよな?
なんか薬研くんの髪ボサボサしてない?
薬「翡翠も瑪瑙も悪いな。急に呼び出しちまって」
翡「いや、薬研もご苦労さんだな」
『薬研くん。そうか、翡翠呼んだのって…』
薬「ああ、俺だ。見ての通り大将はあの状態だから連絡できなくてな。通信できたとしてもこの声量じゃ伝わらないだろうってことで、俺が静かなとこに移動して翡翠に連絡したんだ」
『成る程ね。で、薬研くんも瑠璃に苦戦してそんな髪型なわけだ』
薬「はは…、身嗜み悪くてすまんな。席外す前は大将が書類整理してたから瑠璃ももう少し静かだったんだが、運悪く仕事終わっちまったみたいでな。俺が戻ってきたらこの暑い中べったりくっついてて何やっても剥がれねぇんだ」
…何やってもって何したの薬研くん。
まぁ何でも良いけど、これじゃ瑠璃はともかくクロちゃんが熱中症でぶっ倒れちゃうね。普段はあまり人に頼らない子だけど、SOS上げるわけだ。
じゃ、助けに入るとしま…
ゲシッ
瑠「ぎゃっ!!」
スタスタと部屋に入ってった翡翠はシロちゃんを押し退けると横から瑠璃を蹴っ飛ばした。
翡「剥がれろ馬鹿タレ」
よ、容赦ないな翡翠。一応瑠璃も女の子だよ?
まぁ、ちゃんとシロちゃんには優しく配慮してるしいっか。
…ん?
あれ、クロちゃんは…
クロ「きゅぅぅぅ……」
薬「うわああああ大将ーーっ!!!」
加「ぎゃああああああ!!!!
主の首が絞まっちゃうううううう!!!!!」
翡「あ、わりぃ」
シ「あーあ…」
『あちゃ〜…』
瑠璃の腕が巻き付いてたせいで翡翠の蹴りの巻き添えを食らい、しかも未だに剥がれない瑠璃によってクロちゃんの首が…。
ごめんね、クロちゃん。ちゃんと引き剥がしてあげるからもう少し待っててね。
その後、俺とクニ、翡翠と鯰尾、薬研くんと加州くんという六人掛かりで何とか瑠璃の頑丈な腕から逃れたクロちゃんは、暫くの間瑠璃から距離を置いていた。…当然だよね。