桜もだいぶ散ってきた四月後半のある日。
第一、第二部隊の出陣も終えて帰宅した皆の手入れも済んだ。

そろそろ夕飯の献立でも考えるか。野菜でも採りに行こう。
そんなことを考えながら畑当番の膝丸と蜻蛉切を手伝いに行くと、二人してこの本丸にはいない待ち人の会話で沈んでいた。全く盛り上がってはいない、沈んでいた。



膝「兄者ぁ〜…。兄者はいったいいつになったら来るのだ兄者ぁぁ…」


『お前は口を開けばそればかりだね』



膝丸が来たのはまだ最近のこと。その時の第一部隊が検非違使に遭遇し、奴らが落とした刀が膝丸だった。顕現させたその時から兄者兄者と兄弟刀を待っているこいつは俗に言うブラコンというやつなんだろう。

…悪いが俺には理解できん。



膝「当たり前だろう!俺と兄者は検非違使からしか手に入らぬのだぞ!!検非違使が出てこないことには兄者も来ないのだ!!」


『ああ。出会したとしても検非違使が持ってきてたらの話だけどね』


膝「!!兄者ぁぁぁ〜…」


蜻「主…、それくらいにしてやってください。流石に膝丸が不憫です」


『あはは、ごめんごめん』



ちょっと言い過ぎたか。
ズーンと影を落として雑草を引っこ抜く膝丸の肩をぽんぽんと叩いた。



『お前はどうなんだ、蜻蛉切』


蜻「!いえ、自分は…」


『この間、鍛刀でのみ村正出るかもみたいなのあっただろ?結局出してやれなかったけど』



時の政府が鍛刀キャンペーンとか言って、期間限定で千子村正が現れやすくなるように調整かけてたんだよな。俺もやってみたけど、残念ながら村正を鍛刀してやることはできなかった。



蜻「主は悪くないのです!そのお心遣いだけで救われます。村正は少々気紛れと言いますか…癖のある奴ですので、きっと気が向いた時にでも現れることでしょう」


『…そっか』



蜻蛉切がそう言うなら俺からはもう何も言うまい。

そのうち来る…。皆もそう思って兄弟刀を待っているんだ。蜻蛉切は村正を、次郎は太郎を、小夜と宗三も江雪を待っているし、粟田口は勿論一期一振を待ち望んでいる。それでも決して「早く鍛刀してくれ」と口にすることは無い。

これまでの長い刃生を考えれば気長に待つことも出来るのだろうが、期待した結果会えず終いになることを恐れている。俺っていう審神者の寿命は付喪神にとっては瞬きにも満たない短い人生だ。揃いも揃って俺の人生と兄弟刀を天秤にかけて、あろうことか俺の人生を優先しているんだ。

…まったく、馬鹿で可愛い奴らだよな。

兄弟を待つという感覚は俺にはわからない。でも、気に入った奴が喜んでくれるのは何よりも嬉しいことだって思う。










『早く気が向いてくれると良いな。髭切も村正も』

蜻「…そうですね」

膝「兄者ぁぁぁぁ……」


 

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