「…………」
「よろしくお願いします」
他の誰かに頼むつもりは無いのだろう、その願い。
頭を下げて懇願する大将の髪に手を伸ばし、そっと撫でた。
正直なところ、その願いに納得はしていない。
だが、確かにこの役目は俺が負うべきもんだ。他の誰かに譲る気は無い。
「わかった。だが、そうならないことを願ってるぜ大将」
「私も……」
大将は申し訳なさそうに瞳を閉じる。
信じてはいるが、彼女があの女の手に落ちないとも限らない。今、万が一の時の保険をかけておくのは大事だ。
……この保険を使わないことを祈ろう。
その時、大将の鏡に通信が入った。
相手は瑠璃だ。
「クロ!!!!」
「煩いです。そんなに大声出さなくても聞こえていますよ、瑠璃様」
「敬語と"様"付け! ってそれどころじゃないのよ!!」
やけに焦った様子の瑠璃に、俺とシロも何かあったのだと悟る。
今日、瑠璃は瑪瑙と共に病院に行っていた筈だ。敵に襲われた審神者の事情聴取に、今回は瑠璃と瑪瑙でチームを組んで向かわせたと、俺もこんのすけから聞いている。
鏡に映る瑠璃の背景は、本丸で血相変えて待機している刀剣たち。それも、瑪瑙の刀剣たちだ。
つまりそこは瑪瑙の本丸ということだが、その本丸の主である瑪瑙の姿が無い。
「……何があったの?」
「仕事して病院から瑪瑙の本丸に来たんだけど、鳥居を潜ったら瑪瑙が消えちゃったの!」
「消えた……?」
「あたしたちのすぐ後ろについてきてたのに! 瑪瑙の山姥切と燭台切も一緒にいなくなっちゃったのよ!」
「…………」
「翡翠にも連絡したわ! すぐこっちに来るって! クロも来て!」
「……わかった」
通信を切り、大将は鏡を仕舞うと深く息を吐いた。
「……薬研」
「ああ、準備してくる」
俺が立ち上がると、シロは俺たちの湯飲みを盆に片付けていく。
「出掛けること、皆に言ってくるよ。誰を連れてく?」
「刻燿を」
「薬研くんと刻燿だけで良いの?」
「今大所帯で行っても、何もできない」
もしも戦闘になったとしても、これから行くのは瑪瑙の本丸だ。刀剣たちは大勢いる。瑠璃と翡翠も単身では行かないだろうし、人手は足りるだろう。
「行ってくる」
「うん。気をつけてね」
俺と刻燿は急いで身支度を整え、大将と共に瑪瑙の本丸へと急いだ。