「主さん!審神者就任二周年おめでとう!!」
広間の襖を開けると短刀脇差によるクラッカーに出迎えられた。乱が代表して言った言葉に他の刀剣たちからも次々と祝福の声が上がる。
俺も今日で審神者二年やったことになるのか。月日が経つのは早いな。
「おめでとう、主。よく眠れたかい?」
「おう、サンキュ光忠。あーあ、せっかくご馳走作ろうと思ったのにやっぱとられてたか」
「一周年の時は主が自分でケーキとか用意してたからね。今回はそうはさせないよ」
「今日は主が主役ですから」
まったく…、だから長谷部も起こさなかったわけだな。
去年は一年間付き合ってくれた刀剣たちに礼をと思って俺一人でいつも以上の料理を振る舞った。その時も「普通逆だろ!」と突っ込まれたんだよな。
でも俺は祝われるより祝いたい方だし、俺の作った飯食って笑ってくれるのを見るのが好きだ。そう言うと皆にも伝わったらしく全部完食してくれたんだが…。どうやらその時に皆の中で「来年こそは」という決心が生まれてしまったようだ。
中に入ると問答無用で誕生日席まで背を押され、当然の如く長谷部が俺の酒を注ぐ。
「ちぇー、とびっきりデカいケーキ作ろうかと思ってたんだけどなぁ」
「へへ。主のケーキも美味しいけどさ、俺たちが作ったケーキも食べてよ」
「へー、蛍丸も手伝ってくれたんだ」
「全員で準備したんだよ。内番も手分けして頑張ったんだ」
「そうですよ。俺も馬当番の後に盛り付け手伝ったんです。今日は俺たちからの感謝の気持ちってことで、うんと労われてくださいね!」
「それは良いけどズオ、念のため聞くが手は洗っただろうね?」
「あ」
「「「「「えっ!!?」」」」」
…………嘘だよな?
「うそうそ冗談ですって!皆してそんな睨まないでください!ちゃんと石鹸で洗いましたよ!」
「兄弟…」
そういう冗談は勘弁してくれ、ズオ…。バミが呆れ通り越して申し訳なさそうにしてるから。
「ま、良いから飲も飲も!ほらぁ、みんなお酒持って!かんぱーい!!」
「「「「「かんぱーい!!」」」」」
これ以上(酒を)待てなかったんだろう。次郎の乾杯に皆もグラスを掲げて一口飲み下す。そうすりゃあとは用意されたご馳走をつまみながらのドンチャン騒ぎだ。
因みに俺の隣には次郎と日本号が座っている。
「ぷはーッ!祝い酒は美味いねぇ!主も今日はいっぱい飲みなよね!」
「主はいつも俺らといっぱい飲んでんだろうが」
「それ以上にってこと!主が酔いつぶれたとこなんて見たことないじゃない」
「んー、確かに酔ったこと無いなぁ」
俺、ザルって言われるくらい飲める方だし。翡翠も強い方だけど飲み比べしたら俺が勝ったんだよね。酔って甘えてくる翡翠は貴重だったな。
「でしょー!?あ、もう飲み干してるね!ほらじゃんじゃん飲みな!!」
「おう」
「次郎太刀!あまり主に飲ませ過ぎるんじゃない!お身体に障るだろう!」
「お?じゃあ長谷部が相手してくれるわけだね?」
「そういう意味では…!」
「ほら、俺が注いでやるよ」
「あ、主っ!」
「まさか主命第一のあんたが主の酒が飲めねぇなんてこたねぇだろ?」
「ぐ…!当たり前だ!!」
って、…あーあーそんなイッキ飲みしたら潰れるぞ?長谷部はこの本丸じゃ弱い方だろうに。光忠たちが作った料理を食べながら長谷部の飲みっぷりを観察することにしよう。
スープやサラダは勿論のこと、メインディッシュのローストチキンが真ん中に置かれ、テラテラとした輝きが食欲をそそる。最初にナイフを入れたのはやはり光忠だった。
「はい、主。今回のは自信作なんだ」
「お前が最初に教えてほしいって言ってた料理だもんな、これ」
今でこそ料理長って呼ばれるくらいの光忠だって、最初から料理が出来たわけじゃない。顕現したての頃はおにぎりさえもまともに握れなかった。たった二年の間でここまで美味しい料理が作れるんだから彼の努力は侮れない。
フォークを刺しただけでわかるその柔らかさ。鼻腔を擽る醤油の甘辛い香りと絶妙な味加減。噛むほどに鶏肉のジューシーさと香味が口に広がっていく。
「美味しい。上手くなったな、光忠」
「っ、良かった…」
「主のいないとこでずっと練習してたんだぜ、光坊は」
「鶴さんっ!」
「隠すこと無いだろう?主に自分の飯を食べてもらいたいって、俺や伽羅坊が味見係になってたんだ」
「へー?じゃあこれは光忠の努力の結晶だね。君の誉だ。これからも期待してるよ、料理長?」
「!!…もう、誉めすぎだよ主」
顔を赤らめて頬を掻く光忠に笑みを溢す。俺が審神者になって間もない頃に来たのが光忠だ。俺が厨に立つことが多いのもあって、初期刀のクニより共に過ごす時間は多い。主従という関係でなければもっと近い存在だと思う。
「ほい。光忠も飲め」
「えっ、でも…」
「大丈夫だって、一杯だけ飲んどきな。…寧ろシラフでいたら次郎に目ぇつけられるぞ?」
「…………」
耳打ちすれば光忠はチラッとそちらを見やり、苦笑してお猪口を受け取った。今も尚続いている長谷部のイッキ飲み大会。あれには巻き込まれたくないだろう。
長谷部はその後も次郎と日本号によって注ぎ足されてはイッキ飲みを繰り返し、三十分と経たずに倒れ伏すことになった。
「長谷部ー?」
「…っ、も…のめま…へ…ん……」
「だろうねぇ。獅子王、鵺貸してくれ」
「?良いけど、どうすんだ?」
「長谷部にかける」
「鵺は毛布じゃねぇって!」
ダメか?部屋から持ってくるより手っ取り早いと思ったんだけど。
「変なとこでズボラだよな、主…。俺毛布取ってくる」
「おー、サンキュー」
「よーし!邪魔者を成敗したところで今夜は飲み明かすよー!」
「ははは、まぁホドホドにね。明日からの酒もとっときなよ?」
「日本号も飲め飲めー!」
聞いてないなぁ。ま、今日くらいはいっか。
襖を閉めきっていたせいか熱気が籠っていて暑い。
皆の楽しそうな様子を眺めてから一人広間を出た。春の夜風が髪を靡かせ、右側の頬も撫でていく。縁側に腰掛け夜にしては明るい夜空を見上げると綺麗な満月が庭を照らしていた。
「綺麗だなぁ。
お前の髪と同じ綺麗な色だな、クニ」
「っ、綺麗とか言うなと何度言えばわかる」
音もなく斜め後ろに控えていたクニにそう呼び掛ければ、彼も俺の隣に腰を下ろした。
「主役が出て良いのか?」
「主役なんて建前さ。皆で楽しんでくれればそれで良い」
「はぁ…。あんたもその"皆"の内の一人だろう」
「わかってる。少し涼んだらまた戻るよ」
「…そうか」
それっきり、クニも口を閉ざして庭を眺めた。互いに何も言わず、どちらも立ち去ることはしないのに不思議と居心地は良い。
「二周年かぁ…」
「なんだ。あんたでも感慨深くなるものなのか?」
「俺でもって酷いなぁ」
「だが柄じゃないだろう?」
「…ククッ、まぁね」
俺にだってそういう時くらいある。特にこの本丸で過ごすようになってから…、クニや皆との生活が俺の世界をどんどん色鮮やかにしていくから。俺みたいな人間でも周りの影響で変わるもんなんだなぁと自分でも驚いている。
「三年目もよろしく頼むぜ、国広」
ふ、と笑って拳を突き出すとクニは照れたように布を深く被り、同じように拳を出して俺のにコツンと当てた。
「一年前も言っただろう?そう呼ばせるのはあんただけだ」
「主、そろそろケーキ切るよ。ショートケーキ、チーズケーキ、チョコレートケーキ、フルーツタルトがあるけど」
「ショートケーキで」
「オーケー!クニくんは?」
「同じく」
「了解!」
「俺と同じの選ぶのも一年前と変わらないな」
「っ、うるさい」