『お待たせしました。いきなり召集をかけてすみません』



薬研と長谷部と共に広間に向かうと刀剣全員が定位置に座って待っていた。
集められた理由は鶴丸たちが話してくれたのだろう。特に戸惑っている様子も無く、上座に座った私へと向けられる皆さんの視線は真剣そのものだ。



『鶴丸、江雪、宗三。即座の対応、ありがとうございました』


鶴「良いってことよ!」


江「ええ」


宗「それより、″特別任務″とやらの内容をお聞かせ願えますか」


『はい。この間お話しした通り、黒本丸の浄化と修復及び刀剣男士の更正が与えられた任務です。その詳細は…』





今回向かう本丸は中年の男審神者が勤めていたようで、より良い戦績を求める傾向にあったらしい。出陣、遠征、内番…、全てにおいて完璧を求めていた審神者で、政府も優秀だと一目置いていたのだそうだ。

しかし、ある日を境に彼の戦績は著しく悪くなった。

″池田屋の記憶″。初期刀以外には太刀以上の…夜戦と屋内戦に不向きな刀しか揃えていなかった彼は、そこで初めて敗北を知った。これまでの戦術は完璧だったからか、頭脳に自信があったというのに部隊が中傷以上の手傷を負って帰ってきたのを見て絶望した。


″強い刀を揃えた。練度も十分。なのに何故負けた?″


たった一度の敗北で彼が受けた衝撃は大きかった。

それ以来、短刀、脇差、打刀も鍛刀して集め出したものの練度を上げることなく池田屋に出陣させ、毎度重傷を負って帰還する刀剣たちに、彼はだんだんと苛立っていった。


″夜目が効く者を揃えたのに何故負ける?″


当前だ。池田屋は短刀や脇差でも戦い馴れた者でなければ厳しい場所。鍛刀されたばかりの刀剣を出陣させるなど、生まれたばかりの赤子を放ることにも等しい。

それに気付かない彼は毎日がた落ちした戦績を眺めては頭を抱えていたが、それが半年程続くとついに狂い始めた。出陣し、失敗して帰ってきた刀剣たちを次々に折っていったのだそうだ。

短刀も脇差も、そう資源を掛けずにまた鍛刀できる。
弱い刀剣はいらない。また鍛刀すれば良い。

しかし、そんなことをして黙っていないのは刀剣たちだ。太刀以上の刀たちは彼に「元に戻ってほしい」と何度も呼び掛けた。優しかった頃の主人を知っているからこそ、彼が狂っていくのを見ていられなかった。


″声を掛け続ければ、また優しい主に戻る″


そう信じていた刀剣たちだったが、その気持ちは最悪の形で裏切られた。誰の声にも耳を傾けなかった彼は、とうとう近侍を勤めていた初期刀まで折った。一番多くの時間を共に過ごしてきた初期刀を砕かれたことで、刀剣たちは悟った。


″もう主は戻らない″


怒り、悲しみ、嘆き…。様々な感情が渦巻いたが、主従契約を結んでいる刀剣たちが審神者に歯向かうことは不可能。抗えないことを悔やんで数年…、もう何本の同胞が折られたかもわからないある日、その審神者はいなくなった。


 

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