ドカバキと襖を取り壊し、壁に貼られた無数の写真を引っ剥がし、大人の玩具を初め布団、箪笥、畳などそこにある全ての物を原形も残さず壊していく。

勿論、気持ち悪い物ばかりなのでこんのすけが持ってきてくれた軍手とマスクを装備して。
薬研と鶴丸も鬱憤を晴らすかのように拳を叩きつけていた。相当お怒りですね。

本棚と押し入れの中からは小型のカメラまで見つかるから思いっきり引いてしまった。前任は本当に何しに来てたんだろうか。



薬「鶴丸の旦那、細切れにし過ぎじゃねぇか?」


『微塵切りですね』


鶴「そんなことないだろう?」



大きい物はある程度まで壊して持ち運べるようにと、太刀の鶴丸には庭で箪笥とかを壊してもらっていたのだけど…。ちょっとやり過ぎな気がする。

まだ足りないくらいだと言うけれど、それ以上やったら本当の意味で砂になってしまう。イコール余計に掃除が大変になってしまう。
なので、ゴミ袋にそれらを全て纏めてから庭の隅に持っていく。後で跡形もなく焼却処分しよう。

あとは床をさっと箒で掃いてから新しい畳を敷き、襖も新しいものを取り付ければ形だけは綺麗な部屋に元通り。

前任の物が何も無いのを確認して目を閉じ、パンッと柏手を打つと同時に外の風がふわりと入ってきた。

空気の浄化も成功。満足。



鶴「随分とさっぱりするもんだな」


薬「今までが異状過ぎたんだろう」



その通りだと思いますよ薬研。お空がもう橙に染まっています。昨日は離れ、手入れ部屋、厠、お風呂、厨まで掃除できたのに、一部屋掃除するのにこんなに時間かかるなんて本当に異状です。



『では、ここは終わりです』



換気の為に暫くは開けておこうと言って庭に出る。あのゴミを燃やして処分しなければ。
私が何かされたわけでは無いけれど、あれらはやはり気分の良い物ではない。



「…来たか」


『…?』


鶴「三日月!」



ゴミ捨て場まで歩いていくとその横に一人の男性が立っていた。平安時代を連想させる紺色の着物に身を包んだ美しい男性。穏やかに微笑むその表情は儚げで、金の髪飾りがより一層彼の美貌を際立たせている。

鶴丸が″三日月″と呼んだことから、彼があの天下五剣の一つにして最も美しい刀、三日月宗近様だと推測する。成る程、確かに美しい。



薬「なんで三日月の旦那がここに?」



薬研が問うと、彼はのんびりとした口調で言う。



三「なに、前任の部屋の物を燃やすのだろう?俺も見届けようと思って出てきたまでだ」


鶴「そりゃまたなんで?」


三「見ておったぞ、鶴。俺が壊す分まで全て斬り刻みおって」


鶴「じいさん見てたんなら手伝えよ!!」


三「はっはっは。足を運ぶのが億劫だったのでな」



マイペースな人…刀だなぁ。



三「まぁ、それは建前で…その娘と話がしてみたかったというのが本音なのだがな」


『私と?』



自分を指差すとコクリと頷く三日月宗近様。広間にいた誰とも違う、感情が読み取れない瞳をしている。

彼は人間の私を前にして何を思っているのでしょう?私と何を話そうと?



 

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