まずは短刀の薬研から手に取り、柄に口を近づけてフゥ…と息を吹き掛け、柄から刃先に向かって棟の部分をゆっくりと撫でながら霊力を流す。
薬「!!」
すると、所々茶色く錆びていた部分が剥がれるように無くなり、傷も塞がっていく。
何も無かったかのような美しい刃へと変わると、薬研は本体と自分とを見て身体の具合を確かめた。
『まだおかしい部分はありますか?』
薬「…いや、無い。大将、こりゃ一体…」
『私の霊力で本体の傷と錆を落としました』
ついでに言うと、私の霊力を流すことで細かな傷はつきにくくなるし、私の気が満ちている本丸にいれば例え傷ついたとしても治りは早くなる。
要するに、身の内からも外からも傷が癒えやすくなるということだ。
鶴「君には驚かされてばかりだな…。そんなことまで出来るのか」
『実行したのは初めてなので…、薬研には試す形になってしまって申し訳無いのですが』
薬「いや、それは良い。寧ろさっきより身体が軽くなって調子良いしな」
『なら良かったです。では、次は鶴丸と三日月ですね』
三「だが主よ、霊力を使うのは負担にはならんのか?」
三日月が不安げな表情で言う。この場合、霊力を流されることによる自身ではなく、私の身体への負担を案じているようだ。霊力を流されることに関しては恐怖が無いと、その瞳が物語っている。
『大丈夫です。私は霊力を使って疲れることは滅多に無いのでご安心ください』
寧ろ私は極力使った方が良いのだ。有り余る霊力をチョーカーが制圧していることによる負担の方が大きい。
制御できなければ力ある人間には霊圧がかかり、その霊力の大きさに恐れを為して気絶する。
養成所に行く前は、そんなこと微塵も感じないどころか、無意識に制御していたらしい。だから養成所で霊力計測器のメーターが振り切ってしまった時、政府は大慌てだったのだ。恐怖のあまり直ぐ様この制圧チョーカーを作ったというわけだ。
つけた瞬間、まるで政府のペットになった気分だと吐き気がした。面倒なところに来てしまったなと真黒さんを睨んでも、彼も予想だにしていなかった事態に申し訳なさそうに眉を下げるものだから何も言えなかった。
まぁその辺は言う必要も無いだろう。私への負担が無いと知れば安心してくれたようで、三日月だけでなく薬研と鶴丸もほっと息を吐いた。