翌朝。習慣とは恐ろしいもので、目覚まし時計無しに目を開けたにも関わらず、時計の針は五時五十九分を指していた。あと一分眠れたのに…と後悔しながら起き上がり、寝巻きから私服に着替える。
今日はどうしようか。昨日は一番厄介だったあの部屋を片付けたわけだし、残りは鍛刀部屋と刀装部屋。鍛練場もまだ見てないけど荒れてるだろうし、畑も耕さないと使えない。あ、あと厩か。綺麗にしないと政府に馬も貰えないし。
……なんだ、やることまだまだあるのか…。
若干ショックを受けつつも着替え終わる頃に一つの気配が離れへと近づいてくるのがわかった。ドタバタという足音と共に…。
鶴「主!!!」
『おはようございます、鶴丸』
鶴「ああ、おはよう…じゃなくて!!
今すぐ広間に来てくれ!!!」
声をかけてから入ってほしいとか挨拶は基本だとか言いたいことはあったけれど、それどころではなさそうな雰囲気だ。頷くと手を引かれ、広間まで走った。
…廊下も走っては駄目ですよ。緊急みたいだから仕方ないですが。
「だめです!!岩融はわたしません!!!」
薬「んなこと言ってる場合じゃねぇだろ!」
三「今剣よ、このままでは岩融が危ういのはわかっておるのだろう?」
「わかってます!!でもだめです!さにわに岩融はわたしません!!」
鶴「連れてきたぜ!!」
「!!」
なんだコレ、修羅場?じゃないか。
小さい白髪の男の子を囲う薬研と三日月。なんだかカツアゲでもしてるみたいに見える。という言葉は飲み込んで、状況は見ただけでなんとなくわかった。
広間の空気が前よりも澄んでいるのは浄化の作用だろう。各々の顔色も挨拶に来た時より良くなっている。まぁ虚ろになってる者たちはそれでも俯いて動かないけれど。
そして今、一番目を向けるべきは男の子が抱えている薙刀。現在確認されている薙刀は一振のみ、岩融様だ。
刃こぼれどころじゃない。刀身に大きな亀裂が入っていて今にもバッキリ折れてしまいそうだ。今からでも間に合うか…。嫌な汗が手に滲む。
『手入れ部屋に移動させる余裕はありません。薬研、鶴丸。資源をありったけこの部屋に持ってきて頂けますか』
鶴「ああっ!」
薬「わかった!」
三「さぁ今剣、岩融を主に」
「だめです!!」
近づこうとすると男の子…今剣様が私に自身の短刀を向けて威嚇してきた。
今「さにわに……さにわのせいでこうなったのにっなぜまたさにわにあずけなければならないのですか!?」
三「今剣、主は前の審神者とは違うのだ」
今「っ、三日月さま!さにわにせんのうされてしまったのですか!?さにわはきらいだと…にんげんはゆるせないといっていたではないですか!!」
三「ああ、確かに言ったぞ。だがな今剣、人間が全員あやつと同じではないのだと、俺は主の霊力に直接触れてわかった。だから岩融も主になら預けても安心できる。このまま岩融が砕けるのは俺も見たくはない。わかってくれぬか?」
今「…っ」
三日月が今剣様に目線を合わせて説得する。今剣様の瞳が迷うように揺れ、俯いて短刀を持つ手が下ろされた。
わかってくれた。そう思うだろうが、違う。
今「しね!!!」
三日月が腰を上げようとしたほんの一瞬の隙に、今剣様は物凄いスピードで私に突進してきた。まさかそう来るとは思わず、驚いた三日月が今の体勢から彼を止めるのは不可能。急いで持ってきてくれたんだろう鶴丸と薬研が私を呼ぶ声が聞こえた。
…この大きな音は玉鋼でも落としたな。廊下凹んでたらどうしよう?なんて頭はとても冷静だった。