瑠璃様が来て、刻燿が顕現して、その翌日からは刀剣たちだけで出陣してもらい、私は書類や内番に専念するようになった。

皆さんは今のところ出陣も内番もそつなくこなしてくれている。非番でもお手伝いしてくれたりとか、休憩だと言ってお茶を淹れてくれたりもするし。神様にそんなことしてもらうのも気が引けましたが、本当に良い方たちばかりです。


刻燿が皆さんに馴染むのは早かった。特に粟田口兄弟のところでは鳴狐のお供の狐さんや五虎の小虎たちと戯れたり、短刀たちと庭で遊んでいる姿をよく見かける。面倒見が良いようで、彼らも新しい兄が出来たと喜んでいた。
一緒になって今剣と小夜が混じることもあり、その繋がりで三条の岩融と三日月と小狐丸、宗三と江雪とも話すこともあるそうだ。

時には鶴丸と一緒になって長谷部に悪戯したり(陥れるとも言う)、大倶利伽羅や加州たちと鍛練したり、太郎次郎兄弟と刀装を作っていたり…。私以上に皆さんと一緒に行動している。仲が良くてなによりです。


ただ一つ困ったのが出陣だった。私が出陣禁止になった翌日、刻燿を隊長にして出陣してもらったのだが…、どうやら彼は隊長には向いていないらしい。

一緒に出陣してもらった長谷部によると、刻燿は大太刀にしては機動力があり偵察も隠蔽もよく出来ている。打撃力も十分だし振り幅も広いから戦力にはもってこいなのだが、どうも統率力だけは皆無なのだそうだ。

敵を見つけると真っ先に突っ込んでいくタイプのようで、刀装を三つ所持していた筈が気づけば全て壊れていたらしい。
それでも彼が無傷だったのは偶然か否か…。それはわからないがこれからは隊長として出陣させるのは控えることにした。長谷部の疲労(特に顔色)が大変なことになっていましたからね。刻燿自身も「隊長もう無理ぃ〜」と言っていたから隊員として頑張ってもらうとしよう。

今日も刻燿を含めた部隊を送り出し、待機組で内番をやりくりして現在書類を纏め中。



大和「主、そろそろ休憩にしない?」



開けっぱなしの障子からひょこっと顔を出したのは大和守だった。手にはお茶請けセットが二人分ある。一緒に休憩しようということらしい。



『…もうこんな時間なんですね。ありがとうございます』


大和「うん、どういたしまして。主は夢中になると時間忘れるって薬研から聞いてるからね」



休憩は僕らが入れてあげないとと苦笑しながらお茶を注ぐ大和守。彼も最初の印象からだいぶ変わった。

初めて会った時は加州ほどでなくとも鬱な表情で座っていて、二度目の手入れ前に訪れた時は警戒しながらも手入れ部屋に移動した打刀の一人。
チラチラと加州を気にしていたその瞳が私の目と合った時、少しだけ頭を下げてから広間を出ていった。「加州をよろしく」という意味で合っていたようで、彼の手入れの最中も「加州は?」と聞かれ、無事だと知ると心底ほっとしたように微笑んだ顔が印象に残っている。

今では二人で口喧嘩してることが多いけれど、その存在を確かめ合うようにお互いに触れることがある。そうして二人で微笑む姿を見て、私は彼らを救えたのだと実感した。

その後すぐにまた喧嘩に入ってしまうのは、″喧嘩するほど仲が良い″という言葉の具象化だと思っておいた。なんだかんだ喧嘩したって同じ部屋で寝てますし大丈夫でしょう。



『今日は非番でしたね』


大和「うん。でもいざ何も無い日になると何したら良いかわからなくて…」



加州の様子を見がてら馬を愛でに行っていたらしい。馬当番は加州と鳴狐でしたっけ。心配しなくても大丈夫そうだけれど、やはり気にはなるのだろう。相方が近くにいないだけで不安になるものだし。



『大和守は加州が大事なのですね』


大和「っ!?げほ、けほっ!」



ちょうどお茶を含んだところだったからか変なところに入ってしまったらしい。トントンと背中を叩くと落ち着いたようで少しだけ睨まれてしまった。



『すみません。大丈夫ですか?』


大和「はぁ、ビックリした。いきなり何言い出すのさ?」


『思ったことを言っただけです』


大和「…………」


『本当ですよ?』



別に偏見してるわけでは無い。寧ろ友情みたいなものを感じて羨ましく思う。あ、でも兄弟愛の方が近いのだろうか?兄弟刀ではないしどちらが兄かと聞かれたらわからないけれど、″友″と呼ぶにはあまりにも近い存在だと思う。

そう言うと大和守は少し視線をさ迷わせた後、呟くように小さく口を開いた。



大和「…大事だよ、すごく」


『…………』


大和「清光とはもう腐れ縁だよね。沖田くんに使ってもらってた時もずっと一緒だった。憎まれ口叩きながらも僕らは二人揃ってないとしっくりこないんだよ」


『兄弟ですね、本当に』


大和「そうだね」



ふふっと優しく笑う彼の髪を風が撫でていく。高く結われた髪。青い羽織。加州と真逆のスタイルだけれど、そこがまた仲の良い証のように思える。





──もしもシロがここにいたら…
──私たちも彼らのように…


 

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