お花屋さんを後にした私たちは一度スーパーに寄り、ペットボトルの水を一本と雑巾を買った。2リットルの水はちょっと重い。持つと言われたけれど隠形中の二人に持たせるわけにはいかず(傍から見ればポルターガイストですからね)、気持ちだけ受け取って丁重にお断りした。

外に出てまた十分くらい進み、誰も気づかないような小道に入っていく。そこから先は道路も整備されておらず、都会のような街並みから一転して少し前の田舎を思わせる景色になった。民家も無いし電柱もどんどん少なくなっていき、やがて両側に雑木林だけが広がる砂利道になる。

そうして更に十分ほど歩いていくと、やっと見えてきた。



『着きましたよ』


大和「え…」


薬「ここは…」



人気の無い、シン…と静まったそこ。まだ昼間なのに周りに鬱蒼と繁った木々によって影が落とされ、少し肌寒さも感じる。



大和「ここが主の特別な場所?」



お墓だよね…とそこを見回しながら大和守がぽつりと言ったのに対しこくりと頷く。彼の言う通り、ここは日本風の墓石が並ぶ霊園だ。



『この奥です』



二人とも、まさか墓地に連れてこられるとは思っていなかっただろう。花束にもお墓に定番の菊の花は無く、スイートピーやアネモネを入れていたからわからなかった筈。

『こっちですよ』と声をかけ、墓石の間を通って目的の場所へと向かう。他の墓石と何ら変わりは無い、"猫塚家之墓"と書かれたそれ。違うところと言えば、線香皿に乗っているものが線香ではなく簪であること。
いつもここで手を合わせてからシロのお見舞いに行く為、匂いがつかないように線香はあげていない。

ここが私の特別な場所。



『……お久しぶりです。父さん、母さん』


「「!!?」」


『今日は紹介したい人たちを連れてきました。薬研藤四郎様と大和守安定様。二人とも刀の付喪神様なんですよ』


大和「ぁ…るじ…?」


『私と一緒に戦ってくれている頼もしい人たちです。今日は二人しか紹介できなくて残念ですが…』


薬「たいしょ…」



驚き固まる二人の前で、雑巾を水で濡らして墓石を拭っていく。月に一度お見舞いの日に訪れて掃除しているものの、雨風に晒されれば汚れるのは早いらしい。雑巾、もう真っ黒だ。

花立てにある古い花を捨て先程買った花束に手を伸ばすと、横から別の手が伸びてきて取り上げられ、私が持っていた花立てもまた別の方向から奪われた。



『薬研、大和守…』



花束を取り上げた薬研は束ねている輪ゴムを外して二つに分け、大和守が水を取り替えた花立てに生ける。



薬「大将…、俺たちをなんでここに…?」



手を休めず薬研に質問を投げ掛けられた。特別な場所と言われたのが墓地なのだから疑問に思うのは当然だろう。大和守も同じく静かに私の言葉を待っている。



『…紹介したかったんです。両親…、特に母には』


大和「僕たちを?」


『はい。今日は貴方たちしか連れてこられませんでしたけど』



いずれは全員を紹介するつもりだ。私が今誰とどうしているのか。どんな人たちがいるのか。審神者になったことを報告して以来、来ていなかったから。

それに、彼らも気になっていた筈だ。私の口から出る家族関係について。
真黒さんと瑠璃様とは義兄妹で、血縁はシロだけ。養子になったことは言ったけれど、両親については一言も話していない。



『家族についてはちゃんと話さなければと思っていました。ここに来て、話す内容を固めたかったんです。本丸で皆さんに話そうと思うんですが…』



その時に一緒に聞いてくれますか?と問うと、二人とも真剣な表情で頷いてくれた。









 
両親のお墓に手を合わせ、元来た道を戻りながら今度は公園へ。そこにはホットドッグやクレープの屋台があり、少し遅めの昼食にそれを買った。

今日は平日だからか人はいないし、端っこのベンチなら誰も来ないだろう。簡単な結界を張って三人でそこに座り、ホットドッグに興味津々な二人に一つずつ手渡しいただきますと言って一口かじる。



大和「あ、これ美味しい」


薬「美味いな」



口に合ったようで二人とも夢中になってかぶりついている。私はまだ四分の一しか食べてないのに、もう食べ終わりそうな勢いで。

食べ始めて五分しか経っていませんよ?もっと味わって食べません?あああ…終わってしまいました。



薬「ゆっくりで良いぞ」


大和「食べ終わるのいつも遅いよね、主は」


『二人が速いんですよ…』



それにこのホットドッグ、一つが大きくて量が多い。半分食べましたけどだいぶ満腹です。
…残りは帰ってからにしましょうか。捨てるのは勿体ないですしね。



『ごちそうさまでした』


大和「え?もう食べないの?」


『お腹いっぱいなので。食べかけですけど食べますか?』


薬「大将、食細すぎるぞ」


『そんなことないですよ』



残り半分を更に二つに分けて二人にあげればペロリと完食してくれた。どこにそんなに入ってしまうんでしょう?あまり食べられない私には疑問でしかありません。

さ。お腹も膨れたことですし、そろそろシロの所に行きましょうか。


 

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