チリリーーン…
時折吹く風が風鈴を揺らし、静かな音色が響き渡る。
七月の会議もお墓参りも、シロのお見舞いも先日終了した。加州も乱もシロとは相性抜群で、一緒にビーズアクセを作ったりお気に入りのぬいぐるみ達を紹介したり、楽しそうに盛り上がっていた。
そんな三人の様子を見ているだけでお腹いっぱいなくらい幸せを感じてしまう私は低燃費過ぎるだろうか?
あ、前に似たようなことを真黒さんに言ったら「そんなところにまで省エネエコモード発揮させないで!」って言われましたけど…、そんなことないですよね?
さて。私は今、自室にて書類整理と、もしもの時の為に呪符を作成している。
…のですが…
『…………』
「「…………」」
「「「………………」」」
なんだか多方向から視線を感じるのは気のせいではないと思う。
最初は数人分だったと思うのだけど、いつの間にやら完全包囲されているような…。あれ、そう考えるとちょっと恐怖感が…。
薬「大将、帰ったぜ」
『!お帰りなさい。薬研、厚』
振り向くと開けっ放しの襖の向こうには薬研と厚がいた。
第一部隊の帰宅ですね。今日は厚の出陣リハビリも兼ねて簡単そうな場所を選んだから余裕だったのでしょう。本人達は笑顔ですから怪我人もいないようです。
『久々の出陣は大丈夫でした?』
厚「おう!もうちっと強いとこでもいけるぜ!」
『それは良かったです。では次回の出陣先は強めのところにしますね』
薬「それより大将、今驚いてなかったか?」
厚「(え?驚いてたか??)」
いつもなら気配で誰が来るのかわかってるだろうと、薬研は座りながら不思議そうに訊ねてくる。
私より私のことをわかっていらっしゃいますね。
『気配察知が遅れました』
薬「いや、別に察知しなくたって構わないんだが…」
厚「何かあったのか?」
『何かというほど気にすることではありませんよ。視線が多くてそっちに気が逸れていただけなので』
薬「視線?ああ、あいつらか」
厚「あー…」
成る程なぁと苦笑する二人はそれが何なのか知っているらしい。私にはさっぱりわかりません。
薬「悪いな、大将。後で注意しとく」
『注意まではしなくても良いですけど…。新しい遊びでもしてるのですか?』
気配からすると乱と五虎、今剣に時々小夜と前田まで加わっている。骨喰を巻き込んだらしい鯰尾もいるようだ。
かくれんぼにしては気配が駄々漏れだし違うと思うのだけど…。
薬「最近暑いだろ?皆それぞれ本丸の避暑地巡りしてるみたいなんだが…」
厚「落ち着いたのが揃いも揃って"ここ"だったんだろうな」
『"ここ"?』
厚「大将のいるとこ」
『???』
私のいるとこ?何故?
チリリーー……
頭にクエスチョンマークを飛ばしていると少し強めの風が吹いた。結んでいない髪が顔にかかる。暑いのだから結べば良かったと今更ながらに思った。
さらっと除けて再び目の前にいる彼らを見る。
「「…………」」
『?』
え?
何故でしょう?ガン見されています。
瞬き忘れてますよ?大丈夫ですか?
『何かついてます?』
薬「ははっ、いいや。あいつらが"ここ"を避暑地にすんのもよくわかると思ってな」
『?どういう…』
厚「浴衣の大将に風と風鈴。この三拍子が涼しさを生んでんだな!」
『???』
薬「わかんねぇよな。良いんだ、大将はそのままで。あいつらには程々にするようにだけ言っとくから、大目にみてやってくれ」
『はあ…。まぁ、そういうことならわかりました』
意味は全くわからなかったけれど、薬研が言うなら大丈夫なのだろう。