蒸し暑く薄暗い部屋に私は一人で立っていた。カーテンの隙間から入ってくる太陽光に、今が昼間なのだと認識する。
はて?何故昼間なのにカーテンを閉めきっていたのだろう?
あんなにも眩しい光があれば、電気など必要ないくらいに部屋が明るくなる。その眩しい光を部屋に満たそうと、そのカーテンへと手を伸ばした。
しかし、もう少しで手が届くというところで私の視界は暗転する。
光が消えた?
そう思ったけれど、目の前に現れたその顔と更に後ろに見える木目によって、光は遮られただけなのだとわかった。
……否、正確には押し倒されたのだと…。
「───ッ──!!」
…ああ、またか。また貴方は私を重ねているの?
苦しい程に抱き締められ、そうかと思えば腹に感じた熱いまでの痛み。何度も何度も呼ばれる懐かしい名前は私のものではない。
『……もう…やめよ?』
これ以上繰り返すのは間違っている。こんなことしてもあの人は戻って来ないんだよ?
伸ばした手はきつく握られ、またしても痛みが身体を襲う。その人の表情はまるで自分が痛いと言っている程に苦しげで…。
『…………』
いつの間にか部屋にまた一人で取り残され、立つ気力も無く首だけを横に傾ける。カーテンの向こうは相変わらず眩しそうだ。痛む腕をもう一度伸ばすけれど、今度は重い瞼に阻まれる。
『……っ、…』
……また…届かなかった…。
『……………』
襖から漏れてくる光が顔に当たり、朝であることを告げている。時刻は四時過ぎ。いつもより少し遅い。目覚まし時計が無いのにこの時間で起きれるのも凄いことではあるのだけれど、悪い寝覚めは勘弁願いたい。
最近毎日のように見る夢。それは私がまだ小学生の頃の…父から虐待されていた時のものだ。なんでまたそんな夢を見るようになってしまったのだろう?そもそもこれまでに夢を見ることなんて殆ど無かったのに。
…考えていても仕方がないですね。
さて。最近は四時半に鍛練場で自主トレという名の朝稽古をするのが日課となっている。まだ九月上旬のため暑い日が続きますからね。眠いけれど身体は少しでも涼しい時間に動かしたい。
早く着替えて鍛練場に向かおうと身体を起こし、寝間着に手をかける。帯を解いて汗ばんだ浴衣を脱ぎ、ふと目にしたそれに眉が寄った。
『……これは…』
等身大の鏡に映る自分の姿。肌を埋め尽くさんばかりの痣はもう見慣れてしまったものだ。今更これを見て何を思うでもない。
……何も思わなかったのだけれど…
『……嫌な感じがしますね…』
こういう予感は外れてほしいのですが…。
一先ずはそれを頭の隅にやり、鍛練用のジャージに着替えて部屋を出た。
刻「あ!クロちゃんおはよぉ!」
長「おはようございます、主」
『おはようございます、刻燿、長谷部。今日もお手合せお願いしますね』
刻「はぁ〜い」
長「は!よろしくお願い致します!」