午前の演練は私たちの勝利に終わった。お相手の桃色審神者さんの顔色は悪く、ありがとうございましたと告げても返答はせずに刀剣たちを連れて去っていってしまった。

やり過ぎましたかね?ちょっと反省です。



瑠「珍しいわね、あんたがあそこまで怒るなんて。刀剣の侮辱でもされた?」


『わかってるなら聞くな瑠璃。腹立つ』


薬「(!大将が瑠璃に会って早々に敬語も様付けもしねぇとは…)」


瑠「(めっちゃご機嫌斜めね…)
ごめんごめん、甘いもの奢るから許して?」



今は瑠璃たち特別部隊揃って喫茶店でお昼休憩中。連れてきた刀剣男士も全員入り交じっての昼食だ。さすがにテーブルはいくつかに分かれているけれど、私たち審神者は同じテーブルについて雑談していた。

別に一緒に座ろうと話したわけではなかったけれど、刀剣たちは気を遣ってくれたらしい。皆さん優しいです。因みに隣のテーブルには薬研、石切丸さん、鯰尾さん、鶴丸さんといった近侍たちが集まっている。何かあった時の為か、或いは日頃の近侍としての話でもするのかもしれませんね。


聞かれた内容は勿論先程の演練内容だった。頭に半分くらい血が昇ってましたからね、そりゃ不思議にも思われてしまっただろう。瑪瑙さんと翡翠さんも驚きに満ちた表情です。

あったことを全てありのままに説明すれば、三人とも苦笑しながらも納得してくれた。



瑪「成る程ねぇ、そりゃクロちゃんじゃなくても怒るわ。俺だったらもっとキレてた」


翡「気をつけろよ瑪瑙」


鶴「君がキレたら俺たちじゃ抑えられんしな。翡翠にしか無理だ」


瑪「ははっ、今じゃ滅多に無いから大丈夫だって」



"今じゃ"ってことは昔はよくあったんですか?それこそ驚きです。

でも一番温厚な人ほど怒ると怖いと言いますしね…。否、温厚な人を怒らせる方が余程酷いのですよね。そう考えると過去に瑪瑙さんを怒らせた人とはどんな方なのでしょう?想像もできません。



今「あるじさま!あそんできてもいいですか?」


瑪「ん?ああ、食べ終ったのか。いいよ。二時には戻ってね」


今「はーい!」


小夜「主、僕も良いかな?今剣に誘われたんだ」


翡「おう、行ってこい」


今「五虎退くんのあるじさま!五虎退くんもいっしょにいいですか?」


『はい。行ってらっしゃい、五虎』


五「あ、ありがとうございます!行ってきます」



短刀たちを中心に食事を終えた皆さんには自由行動を言い渡した。午後の演練まで時間はありますから良い息抜きになるでしょう。他の本丸の刀剣男士との交流も大事ですしね。


気づけば私たちと近侍だけが残っていた。
瑠璃と共にデザートメニューを眺めながら抹茶ラテを飲んでいると、今度は最近の審神者の眠りについての話題になる。



瑪「また増えたらしいね、眠る審神者」


瑠「おにぃも言ってた。これで二十七人目よ。政府も原因究明してるけどまだ何もわからないって」


翡「演練来てる連中にも不安が広がってんな」



今周囲を見回してみても噂をするかのように話している審神者がちらほら。

深刻な話だからか薬研たちもこちらに耳を傾けている。

私たち特別部隊の中にその犠牲者がいないのは幸いととるべきなのだろう。こうして情報交換もできるし、演練で共に力を高めることもできる。今回瑪瑙さんが提案してくれたのもその為なのだ。



翡「確認するが、お前らに体調の変化は?」


瑠「あたしは無いわ。全くもって異状なし」


瑪「俺も無いなぁ。腕も治ったし、寧ろ快調。クロちゃんは?」


『私は…。…少々、相談したいことがあります』


瑠「相談?」



私の場合は何も無いとは言えない。身体は普通に動くけれど、夢見の悪さと痣については異状だ。これが審神者たちの眠りに関係するかはわからないが、良い機会だから相談してみるのも有りかもしれない。



薬「…………」



隣のテーブルでは薬研が案じるような視線を送ってくれている。

百歩譲って瑠璃なら同性だから話しても問題無いが、瑪瑙さんと翡翠さんは男性だ。内容が内容なので少し勇気はいるけれど、でもこの二人なら大丈夫だと思う。



『(お二人なら真黒さんから聞いているでしょうし)』



あの心配性の義兄なら、私が特別部隊に入る以前に説明している筈だ。私の過去のことも、チョーカーのことも。

守るためなら恨みを買うことも厭わずに平気でやってのける。真黒さんはそういう人だから。

だったら私もそれに応えなければ。


 

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