真「刀剣男士は審神者の霊力があって顕現している。つまり審神者が亡くなる、若しくは何らかの形で本丸から審神者がいなくなった場合には、体内に残った霊力のみで動くことができ、底が尽きればただの刀に戻る」
『では破壊された時はまた霊力を注げば戻るのではないのですか?』
真「それは難しいよ。何故なら、一度破壊された刀は二度と同じものには戻らないからね。まぁ擦り上げて形は刀に戻せたとしても、同じ刀剣男士が戻ってくるとは限らないということ。過去の記憶が殆ど無い骨喰藤四郎がその一例かな」
『…"限らない"ということは戻ってくる可能性もあると?』
真「それはわからないな。なにせ誰もやったことが無いからね。憶測でしか言えないよ」
『…では破壊寸前まで傷ついたとして、手入れする猶予も無い時はどうです?悪足掻きで手入れしても間に合わない時は折れるのを見届けることしかできないのですか?』
真「そうだなぁ…。その時は本当に悪足掻きで最後の最後まで手入れしてあげることしかできないかもしれない」
『そうですか…』
真「でも…」
『…………』
懐かしい夢を見た。
……………はて?
何故私は横になっているのでしょう?
いつの間に布団に潜りましたっけ?
真っ暗な部屋で目を開けて、まだ朧気にしか考えられない頭で自問自答。いえ、自答はできていませんね。自問自問です。
部屋も布団も自分のものだけれど、生憎今日はいつ寝たか覚えていない。それに悪夢に魘されてもいないし、あの夢はいつだったか真黒さんに補習授業をしてもらった時の…。何故またそんな過去夢を?
……駄目です、さっぱり頭が機能してくれません。
ふぅと息を吐くと喉がすっかりカラカラなことに気づく。時計の針は深夜三時。もう誰も起きていないでしょうね。パラパラと聞こえてくる音は雨でしょうか?
『…っ』
厨で水でも飲もうかと身体を起こすと寝起きだからか途端に眩暈に襲われてトンッと畳に手をついた。すぐに治まるだろうと目を瞑ってやり過ごそうとするけれど、なかなか治らない。
何故でしょう?もっと増した気がする。
自分でもよくわからない感覚に戸惑い、頭を押さえるとスゥッと静かに襖が開いた。こんな時間に来訪者とは珍しいとその人物を確かめる為に見上げれば、夜闇と雨を背景に白衣を纏って佇む彼、薬研と目が合った。私が起きているとは思わなかったようで、驚いているらしく瞬きも忘れて固まっている。
ああ、やっぱり雨の音だったのですね。彼の藤色を見ながらも何故だか意識は雨に向いてしまった。
薬研をよく見ればお盆とお水を持っていて、襖を開けるために置いたのだろう足元には水桶がある。何故そんなものをと考える前に、我に返った彼は部屋に入って私の横にお盆と水桶を置き、燭台に火を灯して座った。
薬「大将、具合どうだ?」
『…具合?』
薬「…って、やっぱ覚えてねぇか」
具合?覚えて?
どういうことだろうと頭を捻るもやはり頭は働いてはくれず、そんな私を見て苦笑した薬研は湯呑みに白湯を注いで渡してくれた。
そういえばお水を飲みに行こうとしていたんだった。ついさっきのことまで忘れかけているとはもう歳だろうか。否、目の前に超高齢者がいるのだから私の方がまだまだ若い。なんていつも以上に変な思考を巡らせながらもお礼を言って白湯を一口。
じんわりと身体に染み込んでくる温もりにほぅっと息を吐く。そして徐々に思い出してきた。
そうだ、私は…
『…倒れたんでしたね、私』
薬「ああ。そりゃもう大騒ぎだったぜ」