薬研が何故か真っ赤な顔して出ていってしまったため、何もすることが無い私は再び布団の中に戻ることにした。まだ少し熱があるようで、頭の血が重く沈んでいくような変な感覚がする。



『…………』



…話し相手が居なくなってしまいました。暇です。

部屋から出ることも考えたけれど、それは看病してくれた薬研に悪いと思ってやめた。看病する側の気持ちは私もよく知っていますからね。



『(…とりあえず今後のことを考えましょうか)』



夢でシロと話した内容はハッキリ覚えている。だからそれを皆さんに伝えて、瑠璃様たちにも報告して。その対策も練らなければならない。瑪瑙さんと翡翠さんにもご協力願わなければ、私一人でどんなに頑張ったって解決しない。

…まずい。思ったよりやることありますね。

腕で目を覆い、視界を遮って真っ暗な中で考える。
あまり時間は残されていない。謎は解けてきたけれどその理由にはまだ辿り着いていない。それさえわかれば根本的な解決に繋がると思うのだけど…。



『…………、一か八か…』



聞きに行ってみようか。あの人なら何かしら知っている筈だ。そもそも何故今まで動かずにいるのかが不思議でしょうがない。

動かないのか、動けないのか。それとも他に理由があるのか知らないけれど。次に何か起こる前には私も動かなければ…。



燭「…主、起きてる?」


『光忠ですか?起きていますよ。どうぞ』



考えるのを一先ずやめて起き上がると、光忠が失礼するよと言って入ってきた。お盆に一人用の土鍋を乗せて。割烹着姿もだいぶ見慣れてきましたけどいつも思う感想は一つ。お似合いです。

視界を遮っていたせいで少しの光でも目がチカチカする。真っ暗にするのはやめておけば良かったと少し後悔した。



燭「おはよう。お粥持ってきたんだけど食べられる?」


『ありがとうございます。戴きます』



光忠は隣に腰を下ろすと土鍋の蓋を開け、立ち込める湯気の中をお玉でかき混ぜた。真っ白で艶々したお米とふんわりした玉子が絡み合っていく。

普段はそんなに食欲が湧かないのだけど、やはり光忠お母さんのご飯は違う。お腹すいてきました。



燭「はい、どうぞ」



お茶碗に少な目に盛られたそれを受け取り、少し息を吹き掛けて冷ます。せっかくの熱々ですけど口内まで火傷しては堪りません。

ある程度冷まして一口含めば噛まなくてもご飯が蕩けていき、玉子の風味が口いっぱいに広がっていく。



『美味しいです』


燭「口に合って良かった。具合は大丈夫?」


『はい。まだ微熱はあるようですが、光忠のご飯を食べればすぐに治りますよ』


燭「またそんな上手いこと言うんだからもう…」


『本当のことですからね、お母さん』



そう言ってもう一口食べると、光忠は困ったように眉を下げ頬を少しだけ染めてふっと微笑んだ。照れているようですね。

……おや、何やら床下から気配が…



ガコッ、パシャッ


燭「っな…!?」


鶴「こりゃあ良い写真が撮れたぜ!」



畳が一枚上がったと思えば現れたのは砂埃つきの真っ白鶴丸。出てきた瞬間にシャッターを切ったから、良い具合に光忠の照れ顔が撮れたことだろう。



『やはり鶴丸でしたか』


燭「ちょっと主、鶴さんがいること知ってたの!?」


『誰かいるなぁとは。床下なので鶴丸だろうと予想はできました』


鶴「ははっ、熱が出ていても主は鋭いんだな。こりゃ驚いた。もう大丈夫なのか?」


『はい、お陰様で』


燭「っ、鶴さんそのカメラ貸して!さっきの消すから!」


鶴「おおっと、そうはさせるか!」



襖を開け放って出ていく鶴丸を光忠が追いかけていく。あらあら、そんなにドタバタと足音を立てて…。なんて思っていたら遠くで「廊下を走るなー!!」という長谷部の大声と、賑やかな笑い声も聞こえてきた。なんだか前にも似たようなことがあったような…?

…心配をかけましたが、笑ってくれるなら皆さんも大丈夫ですね。

ふわりとそよいだ風が暖かな空気と皆さんの声を運んでくる。成る程、確かに私の周りでは風がよく吹くらしい。属性が風だというのも頷ける。

…皆さんにも私が大丈夫だと伝えなければなりませんね。

食事を終えてパチリと指を鳴らし、本丸に風を行き渡らせる。ほんの一瞬だけれど、皆さんの頬を撫でるように。ありがとうの意味を込めて。


 

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