ギン!ガキンッ!!



蘇芳と刃を交えてどれだけの時が過ぎただろう?何度打ち込んでも彼は同じだけの力でもって相殺し、逆に打ち込まれれば私がそれをいなして死角をとる。

だがそこで遡行軍の横槍が入り、そいつを倒している間に蘇芳が間合いをとる。その繰り返しで一向に決着がつかない。



蘇「五分五分といったところでしょうか?まさか私の動きについて来られるとは」


『嘗めないで頂きましょうか。貴方の方が額に汗が浮かんでいますよ?』


蘇「おっと、これは失礼。真冬ですからねぇ、スーツの下にも厚着しているもので」


『息も上がっていますね。もうお疲れですか?』


蘇「フ、ご冗談を」



…憎たらしい笑い方だ。

これ以上私たちの本丸で暴れないで頂きたい。せっかく実った野菜畑まで踏み荒らされて…



『この世は地獄ですね。大人しく生きていてもこのような事が起こるなんて。ね、江雪?』


江「そうですね…。この世は悲しみに満ちています…」



宗「主が江雪兄様のようになってしまいますね」


小夜「うん。今日は主の口数も多いね」


宗「ええ。しかもずっと毒舌です」


次「やだねぇ、なんか主のとこ火花散ってるのに寒気がしないかい?」


太「私の目には吹雪が見えますよ」



戦いに集中しながらも皆さん私たちの会話を聞くくらいの余裕は出来てきたようだ。そんなにこちらを気にしていては貴方たちが怪我をしますよ?
このまま押しきれれば良いのだけど…。


再び蘇芳の死角をとる。しかし今度は上から薙刀が降ってきた。



『!』



後方に飛び退けばそこで待っていたのは打刀の突き。刻燿でそれを防ぎ弾けば背後には脇差、上空から短刀が迫っていた。

防ぎきれない。



『(やれやれ…)』



が、私は短刀だけを意識して刻燿を振るう。すると、私を横切った黒い風がもう一体の迫り来る脇差に向かっていき、ギンッという金属のぶつかる音が聞こえてきた。



薬「大将に構ってもらいてぇのはわかるが、俺の相手にもなってくれや」


『薬研…』


蘇「…チッ。ならば…」



舌打ち、丸聞こえですよ?本当にこの人があの穏やかな笑顔を浮かべていたとは思えないくらいの豹変っぷりだ。

力で敵わぬならと術をかけるつもりらしく、印を組む彼の方には大小コンビ、岩融と今剣が駆けていく。



岩「俺たちの相手もしてもらおうか!!」


今「あははっ!うえですよ!!」


蘇「く…!」



蘇芳と離されたことに一先ず安堵し、私と薬研は揃って敵を斬り捨て互いに背中を預ける形になった。



『…なんだか懐かしいですね』


薬「何がだ?」


『初めて私が函館に行った時…』



あの時もこうして薬研と共に戦った。手にはまだ顕現できなかった刻燿を握って。



薬「そうだな。まさかまたこうして大将と戦場に立つとは思わなかった。できれば大将にはもう戦ってほしくなかったんだがなぁ」


『それはできませんよ。ここは戦場と言えど私たちの家。お家を守るのも主たる私の務め。それに言ったでしょう?"戦うことは生きること"って。私はいつでも本気で生きてますから』


薬「ははっ!こんな時でも強いなぁ大将は。やっぱ大将がいると皆の士気も高まる」



雑談しながら次から次へと敵を迎え討つ。なるべく薬研と離れすぎないように。それはお互い話して確認したいことがあるからだ。



薬「気づいてるか、大将」


『…ん。増えている』



まだまだ多くの敵に囲まれている。それどころか、ここの結界はまだ張り直せていない為に時空の歪みから敵が増えていく一方だ。倒しても倒しても減らない。

完全に結界が破られている訳ではなく、力が薄くなっている部分が外側から破られ、そこが歪みになって敵の侵入が果たされている状態だ。見たところそれが数ヶ所あるらしい。



『皆さんも…士気が高まってはいるけれど、少しずつ疲れが見えてきている。さっきの手入れだけではまだ不十分。このまま続くのはまずい』


薬「隙を見て張り直せるか?」


『…張り直すには、抉じ開けている外の力を押し返さなければいけない。でも、今の私では不可能』


薬「…"今の"か」


『そう』



"今の状態"では不可能。つまり、この首に座っているチョーカーさえ外してしまえば簡単に結界を張り直せるだろう。皆さんに術だけで完璧な手入れを施すことだって…。

でも…



『まだ、できない』



もう少し待たせてほしい。まだ早い。来るべき時はすぐそこにある。そう思うから。


 

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