真「…蘇芳」


蘇「…っ真黒」



静まり返った空間で二人の会話だけが耳に届く。敵同士の親友を前にして、彼らは何を思うのだろう?



真「違うと思いたかったよ。まさか蘇芳がって…。でも、どこかで君を疑っていたのも事実だ。君の笛の音はいつも過去を思い出させたから」


蘇「…………」



笛の音…。そうか、審神者の眠りも彼の笛の能力だったということか。

政府で吹き鳴らしていた彼の音色に囚われた審神者が眠りについたのだ。私に効かなかったのは恐らく薬研に名を託していたから守りが働いたのだろう。



真「俺の過去を変えたかったんだろう?」


蘇「っ!」



自身を"俺"と言う彼は役人ではなく親友として蘇芳と話していることを表している。図星だというように動揺を示した蘇芳に真黒さんは苦笑した。

そんな二人の様子に溜め息を吐いたのは瑠璃だった。



瑠「はぁ…、そういうこと」


瑪「瑠璃?」


翡「何か知ってんのか」


瑠「…本当はね、おにぃも審神者になる筈だったんだよ」


『え?』



瑠璃曰く、真黒さんは幼少の頃から霊力の他に特殊な能力があった。顕現していない付喪神を視る力。それは時の政府が刀剣を実装するにあたり是非とも手に入れたい能力だった。

しかし、当時既にトップに立っていたご両親、重春様と麗華様は反対したらしい。自分の子が能力の為に利用されるとわかって差し出すわけが無い。だが古くから上層部にいる重鎮たちは重春様たちの反対さえも押し切り、真黒さんを政府に所属させ能力までも公表。逃げ道を絶たれた。



瑠「あたしが物心ついた時には、もうおにぃは役人として働いてたの。出掛ける時もスーツで仕事ばかりで…」


蘇「そうだよ。真黒はずっと仕事しかしてこなかった。僕と出会ったのは能力が発覚する前…、一緒に養成所に通っていた時で、発覚してからは役人の部屋を与えられて仕事尽くし。僕はそんな真黒を見ていられなかった」


真「蘇芳…」


蘇「出してあげたかったんだよ、政府から。だってそうでしょ?せっかく友達になったのに一緒に遊べないし話す時間も少ないなんてさ…。何もかも政府に制限されるなんておかしいじゃん?」



だから過去を変える力を欲した。過去に遡り、真黒さんを役人にしようとする者を消せば良い。

彼の能力は天性のものだからどうすることも出来ないけれど、同じく役人として成長した自分なら…、政府内部を熟知した今の自分になら、過去の役人相手にどうとでも出来るだろうと。

その願いはまるで子供が駄々をこねているようで、それでいて純粋で親友を想う心そのものだった。


静かに蘇芳の話を聞いていた真黒さんは、やがてフッと笑うと彼の頭に手を置いた。



真「バカだなぁ、君は」



そっと撫でるその手つきはまるで幼子をあやすように優しい。蘇芳はまるで叱られた子供のような表情で彼を見上げた。



真「俺の為に自分の人生棒に振っちゃ駄目だろ?一緒に遊びたいなら言ってくれればいくらでも時間作るのにさ。それに、俺は今の仕事に満足してるよ。勉強してたのに審神者になれなかったのは悔しかったけど、でも役人になったことで多くの審神者の為に働けるし知り合いも増えた。審神者にならなくて良かったと今は思ってるよ」


蘇「真黒…」


真「今回のことは誰が見たって許されることじゃ無い。だから私は役人として君を許しはしない。でも、親友として感謝しているよ。俺の為にこんなに行動してくれる親友がいることがとても嬉しい。ありがとう、蘇芳」


蘇「っ!」



微笑みお礼を述べる真黒さん。そんな彼に驚き丸くした蘇芳の瞳から雫が零れ、とうとう項垂れて膝をついた。もう彼が抵抗することは無い。そう判断したのだろう薬研もその首から刃を退けた。

嗚咽を漏らす蘇芳を真黒さんが宥め、そんな彼らをずっと見ていた刀剣たちも目を伏せたり逸らしたりと複雑そうだ。

過去へ飛ぶ力など本当は無い方が良いのだろう。歴史を変えて結局困るのは自分たちなのだから。でも、その力が生まれ敵勢力があるから彼ら刀剣男士が呼び覚まされた。彼らがいるから今の時間は守られている。彼らが存在するには過去を修正する為の力…過去へ飛ぶ力が必要で、なんと皮肉な輪の中にいるのだろう。

しかし、それが今なのだ。作り上げられた力を消すことなど、それこそ過去改変をする他無いししてはいけないこと。ならば私たちはそれも引っ括めて全てを受け入れ、精一杯生きていけば良い。

今回のことでそれを痛感したのは私だけでは無いだろう。



真「クロ。蘇芳のこと、君の過去のこと、本当にすまない」



真黒さんは立ち上がると深々と頭を下げる。今は役人として謝罪しているようだ。



『…そうですね。まさか審神者になってこんな戦争の渦中で戦うことになるとは思いませんでした。記憶までぐちゃぐちゃ…。真黒さんに直接的な責任は無いのでしょうけど、色々とお手伝いくらいはしてもらいますよ?』


真「はは、それは勿論」



後処理が大変だと苦笑する真黒さんに私もふっと笑った。いつもいつも彼はそんな役回りばかりだ。それでも楽しそうだから役人という仕事は彼の性に合っているのだろう。



「それはしなくて良いことだ」



和やかな空気が流れ始めたこの場に落ちたその言葉は再び私たちに緊張を走らせた。


 

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