蘇芳や役人たちとの戦いが終わり、本丸が焼け野原になってしまった俺たちは暫くの間瑪瑙の本丸でお世話になることになった。

勿論今まで通り出陣と内番をやることは変わらない。人数が増え、ある者は同じ顔が二つ揃い(鶴丸とかがそうだな)、二人の審神者が共同生活するってだけの話だ。


本丸の建て直しは瑠璃や真黒に任せておいて問題は無いだろう。近くにある無人の本丸で新たに生活するかとも言われたが、大将を含め俺たちは全員反対した。

後にも先にも俺たちの本丸はあそこだけだ。初めこそ嫌いだった本丸だが、今では大将との思い出が詰まった大切な場所。これから先も大将と生活するし建て直されたって全てが再現されるわけじゃない。だが彼女に更正され、彼女と共に過ごした場所をそう簡単に離れられないくらい、俺たちはあの本丸が好きになっていた。


夕食を済ませ(とてつもなく美味かった)、今は各々が与えられた部屋で寛いでいる。ここには俺たちの本丸にはいない刀剣男士もいるから話も弾むんだろう、割り当てられた部屋に行かず談笑する奴らも多い。

そして俺たち然り、瑪瑙の刀剣たち然り、シロに興味津々な奴が大半だった。俺は見舞いなんかで会った回数が多いが、大将の刀剣でも初対面が多いからな。話したくてしょうがないんだろう。大将も発作にだけは気を付けろと念を押すだけだったし、とりあえずは大丈夫ということで大和守に様子を見させておくことにしたようだ。大和守が一番シロを気にしているからな。


風呂を済ませて一人で部屋に戻ると、ふと大将のことが気になった。彼女は今どこにいるのだろう?
広間を覗いた時にはシロを囲んで刀剣たちが話しているだけだったが、彼女の姿は無かった。瑪瑙は次郎太刀と飲みに他の部屋に移ったらしいし、そこにいるとは考えにくい。



薬「…探ってみるか」



誰かと一緒にいるなら良いが、あまり一人にはさせたくない。

目を瞑り神経を集中させる。彼女の体内に宿る俺の神気を辿れば、ある場所に一つぽつりと見える光があった。その場所は、本丸は違えどあの時と同じ場所。目を開け袿を持ちながら向かえば、やはり浴衣姿の彼女がいた。



『!薬研…』


薬「またこんなとこで…。風邪ひくぞ」



袿を手渡せばあの時と同じようにありがとうございますと礼を述べて羽織った。流れる黒髪はあの時より少し伸びたか?当たり前か、もうすぐあれから一年経つんだもんな。

そんなことを考えながら座り直した彼女の隣に俺も腰を下ろすと、彼女は自分から言葉を発してくれた。



『今まで考え事をする時は自然とこの桜の木の下でしていたのです。ここは瑪瑙さんの本丸ですけど、やっぱりここに来ていました。私が過去を打ち明けたあの日と同じ場所に』


薬「そうか」


『……ずっと、考えていました。今までのことと、これからのこと』


薬「…………」


『…もう、終わったんだよ…ね?』


薬「!」



敬語が取れた。



薬「ああ、終わった。全部終わったんだ」


『もう、我慢しなくて…良い?』


薬「ああ。勿論だ」


『じゃあ…、っ、泣いて…も…ぃっ?』


薬「おいで、夜雨」


『っ!』



俺を見つめポロリと溢れた涙。両手を広げれば彼女は自ら腕を伸ばして俺に身を預けた。背に回された手が俺の浴衣を掴み握っている感触がする。まるでさっきのシロのようだ。



『ふっ…ぅ……っ』



嗚咽を漏らし泣きじゃくる彼女もずっと怖かったのだろう。

シロの分まで全てを背負って生きてきた彼女がやっと政府の手から解放されたのだ。念願の自由を手に入れた喜びもあるだろうが、何よりこれまでのことを考えると恐ろしくもなる。

頭に手を添えてゆっくりと撫でてやれば、彼女はスリッと俺の肩に顔を擦り付けた。

甘えてくれてるのか?
甘えられるようになったんだな。



薬「頑張ったな、夜雨。よく頑張った」


『っ、こ、こわか…っ』


薬「ああ、怖かっただろ。痛かっただろ。もう大丈夫だからな。もう全部終わりだから」



本当に、よく今まで耐え抜いてきたものだ。彼女の首にはもうあの首輪は無い。もう何も繋がっていないんだ。










全てが終わったんだ。これからまた皆で新しく始めような、夜雨。

満天の星空の元、泣き疲れて眠ってしまった彼女の顔は嬉しそうに微笑んでいた。


 

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