まだ梅雨の湿気が残っている日の昼間。庭では今日の仕事を終えた皆さんが、今夜の宴会に向けてわいわいと準備を進めている。
明日は七夕。織姫と彦星の年に一度の逢瀬の日。風習の通り、七月六日の今日から七日の朝にかけて宴をしようということになったのだが……
薬「まさか大将が七夕を忘れてるとはなぁ」
『あまり気にする行事でもなかったもので…』
こんのすけに頼んで取り寄せた折り紙を切りながら薬研の言葉に答える。お昼に鶴丸から「七夕祭りをしよう!」と宣言され、皆さんが乗り気になったところで私は聞いてしまったのだ。
『″たなばた″…って何でしたっけ?』と。
それで薬研に説明してもらって漸く思い出したのだ。七夕なんて幼稚園以来やっていない。その頃と言えば、母さんが亡くなって、父さんが狂って…。悪い意味で人生の転機が訪れた時期だ。
年に一度の行事なんてする暇もなく、ただ生きることに精一杯だった気がする。
でも、今年からはそんなことにはならずに済みそうだ。
長机に並べた色とりどりの折り紙を短刀たちが輪っかにして繋げていく。外では鶴丸と長谷部が中心となって笹を橋に固定させ、厨では光忠や一期たちが腕によりをかけて料理を作っている。シロにも夜までに願い事を考えるようにと伝えたし、今夜はいつも以上に賑やかになりそうだ。
薬「楽しみか?」
『え?』
薬「そんな感じがした。大将が皆を見てる雰囲気からなんとなく」
楽しみ…、薬研にはそう見えるのか。
思えばこうして誰かと共に何かを作るのも、何かに向けて準備をすることも久しぶり…。否、初めてと言ってもおかしくはない。それも、必死になるのではなく自然と…やりたくて手が進んでしまうのだ。
『…そうですね。楽しみです、とても』
この一時一時を大事にしよう。
大事な思い出として、心に刻もう。
乱「(うわぁっうわぁっ!主さんが微笑んでる!!)」
今「(えっ!?あ!ほんとうです!!)」
小夜「(…ちょっとだけど、笑ってる…)」
前「(美しく微笑まれるんですね、主君)」
五「(綺麗です…主様…)」
厚「(へぇ、大将もちゃんと笑えるんだな)」
薬「(…あーあ。俺っちだけの特権がまたもや減っちまった…)」
厚「(!薬研、お前…)」
薬「(なんだ?)」
厚「(…いいや、何でもねぇ。気にすんな!)」
薬「(…………)」