縁側の柱に寄り掛かって、ざぁざぁと雨が降りしきる夜空を見上げる。秋って言ってももう冬がそこまできているから上着が無いと肌寒い。雨まで降ってりゃ尚更だ。酒を飲めば温まるんだろうが…



次「…今夜は飲む気になれないねぇ」


太「おや。珍しいですね、次郎」



足音もなく風呂から戻ってきた兄貴も隣に座り、同じように庭を眺めた。

雨の音はするのに今日の本丸はやけに静かだ。いつもなら燭台切くん特製のつまみを食べながら酒を飲んでどんちゃん騒ぎしているのに、さすがに今日は誰一人として騒ぐ者はいない。



次「…兄貴」


太「はい?」


次「……アタシたちは…、あの子に何をしてあげられるんだろうね…」


太「…………」



まだ齢十八だという主に。

さっきからあの子の身体が脳裏を掠めて消えてくれない。あの痣が…、あの子を苦しめるものが、どうしても頭から離れないんだ。



太「できることをすれば良いのではないでしょうか。私も、次郎も…」


一「太郎殿の言う通りですよ」



兄貴に同意する声がし、見れば湯気の立つ湯飲みを盆に乗せた一期一振と江雪左文字。この本丸では兄貴も含めて長男ズって呼ばれてる二人が来た。

温かい茶はアタシたちに持ってきてくれたらしい。四人分ってことは共に話をしようということなんだろう。アタシも交えてってことは、話題は勿論さっきのことだろうね。



太「乱殿は落ち着いたのですか?」


一「一先ずは…。泣き疲れたようで五虎退たちと共に眠りました。今は鳴狐に見てもらっています」


次「そうかい…」


江「…貴方も、まだ考えておいでなのでしょう?」



…アタシが弟だからか、この長男ズには敵わないねぇ。特に兄貴と同じく物静かで落ち着きのある江雪には。

冷めないうちに貰ったばかりの茶を一口含むと、内側からじんわりと体温を取り戻していった。身体が冷えきっていたことまで見抜かれていたとはねぇ。



次「悪かったね、一期くん」


一「何を謝っておいでで?」


次「乱くんは置いていけば良かったよ」


一「…………」


次「アタシ一人で行くべきだった」





乱「なん…で…っどうしてあんなに…っ、あんな…ひどい…酷すぎるよッ!!」





乱の悲痛な声もまだ耳奥で反響している。抱いた感想はアタシも同じだった。


 

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