「あぁあああああっ!!!?!?」
ある日の早朝、甲高い悲鳴(狂声?)で飛び起きた。恐らくこの本丸の全員が。
何事だ?敵襲か?と近侍部屋から出ると同じく粟田口部屋からも声が上がり、出てきた人物と鉢合わせした。顔を見合わせること数秒。これまた粟田口部屋の全員も同時に固まる。
乱「………え…?薬研…だよね?」
薬「みだ…っ!?声もか!?こいつは一体…」
大して変化は見られねぇが若干違和感がある乱に返答し、自分も同じく変わってしまっているのだと気づく。
"女人"になっている!!
俺の場合は声が高くなって後髪が伸び、本来は無い筈の胸に重みがあるくらいか?
乱は元々が女子っぽいから胸がついたくらいだが、高めの声が更に高くなっている気がする。他の兄弟たちも同じく、変わってしまった身体をペタペタと触って確認していた。
乱「なんかいち兄たちも美女になってるんだよ!」
一「はは…、喜んで良いのかな?」
鯰「良いんじゃない?なんか面白いね!」
骨「…面白がっていて良いのだろうか?」
いち兄と鯰尾と骨喰を見るに骨格も女になっちまってるみてぇだ。肌も…骨ばっていた筈の手がスベスベになっている。そして乱の言った通り三人とも別嬪さんだ。
厚「どうなってんだ?」
薬「厚はなんかカツラでも着けたみてぇだな」
厚「うっ、好きでこんな髪型してんじゃねぇよ!」
短い前髪はそのままに後髪がズルズル伸ばされたような…。髪質が硬めだからか短い髪はピョンピョンとハネている。
まぁそんな観察はさておき、一先ず本当に全員が女になっちまったのか、なんでこんなことになったのか確認が必要だな。
長「全員集まったか?」
長髪になった長谷部が人数を確認する。誰かが召集をかけたわけでも無いのに広間に集まった刀剣男士…。今は刀剣女士か。
やはり刻燿含め一人残らず女だった。
刻「あっはは〜、なんかみぃんな可愛くなってる〜!伽羅っちも顔黒女子だぁ!」
大倶「…ふん」
刻「あ!ツンデレ女子?」
大倶「うるさい」
大倶利伽羅はどこぞの不良女のようだ。よく刻燿も絡みに行けるな。
一番最初に気づいたらしい燭台切の旦那(最初の悲鳴の主)と食事当番の左文字兄弟にはそのまま朝餉の仕度を頼み、俺たちは何故こんな事態になったのかと頭を捻る。
昨夜は特に変わったことは無かった筈だ。いつも通り出陣を終えて。夕餉を摂り。翌日の予定を聞き。風呂に入り。寝た。
…普段通りだ。何も無かったよな?
薬「ダメだな。原因が思いつかん」
一「先程確認したところ、戦装束も女人のものに変わってしまっていました」
前「大きさもピッタリでしたね」
五「と…、虎くんたちもみんな性別が雌に…」
鶴「ははは!まさか寝て起きたらこんな驚きが舞い込んでくるとはな!」
長「笑っている場合か!主に何と報告すれば…!
主?主がまだ起きて来られていない…」
薬「…そういや起きる時間過ぎてるな」
本丸が再建されてから、大将が起きるのは少しだけ遅くなった。と言ってもこれまでが四時起きだったから、六時起きになった今でも十分早いんだが。
政府の所属から外れて大将はやっと気が休めるようになったのだと俺たちもほっと安堵していたが、この緊急事態で起きて来ないのは逆に心配になる。
長「まさか主の身に何かあったのでは!?」
薬「いや、もしそうなら俺が気づく」
大将は俺の眷属だ。異状があれば真っ先にわかる。彼女の異状を俺が見逃す筈がない。
しかし彼女も俺たちの審神者だ。この異状を感知していてもおかしくない筈なんだが…。
薬「起こしに行くか」
ただの寝坊なら良いが…。立ち上がり彼女に何と説明しようかと考えながら広間の障子を開ける。
考え事をしていたからだろう。入ってこようとした人物がいたようで、気づかなかった俺はそいつの胸板に顔面からぶつかった。
薬「っ、すまね……ぇ…?」
随分と背の高い奴にぶつかったなぁと顔を押さえながら見上げて思考が停止した。
『おや?薬研ですか?』
低い声。短い黒髪。高い伸長。
しかし俺を呼ぶその落ち着いた声の響きや同じ色の瞳は見覚えがありすぎるもの。
シ『わぁああ!みんな女の子だぁ!!』
そしてその後ろからひょっこり顔を出した瓜二つの白髪男。対照的な黒と白。思い浮かんだ人物たちで間違いないだろうが一応確認しよう。
薬「た…、たい…しょう?」
『はい。正真正銘、貴方たちの主、クロです』
シ『シロちゃん改めシロくんでーす!』
えぇぇええええ!!?!?
本日何度目かの甲高い戸惑いの声が上がった。
大将たちは男になっていた。