薬「大将、準備できたか?」


『はい。シロ、お留守番お願いね。皆さんもシロのこと頼みます。行ってきます』


シ『行ってらっしゃーい!』



雨が降り頻るとある梅雨の日。珍しく出陣も遠征もお休みにしたクロは薬研くんを連れて現世へと出掛けて行った。

これがデートなら加州くんや乱ちゃんと一緒にクロをお粧しするんだけど、残念ながらそんな甘いものではなくただの健康診断だ。審神者も年に一度は受けなければならないらしい。

いつもは病弱な私の方が心配されてるけど、私からすればクロの方が心配だ。だって彼女は自分で自分の体調をわかってないんだから。ほんの少しの頭痛も腹痛も市販の薬でその内治るって思い込むから、周りが気づいてあげないといけない。現に熱が出た時も気づいてなくて倒れたらしいしね。まぁ、それだけ無理させた原因は私にもあるから何も言えないけど…。

政府から健康診断の通知が来なければずっと把握しないままだったんだろうな。もし変な病気とか掛かってたらと思うと恐ろしい。薬研くんもいることだし大丈夫だと思うけどね。

で、審神者の健康状態は少なからず刀剣男士にも影響が出るみたいで今日はお休みということだ。それに出掛けてる間に刀剣たちが怪我して帰ってきたんじゃ元も子も無いしね。



堀「雨はまだ止みそうにないか…」


和「暫く洗濯物は室内干しだな」


シ『あ、私も手伝う!』



洗濯当番の堀川くんと兼さんの後をついていく。
私には皆のお手伝いをするくらいしかできないから、なるべく手伝わせてもらっているんだ。タダ飯なんて嫌だしね!無理の無い程度にって念を押されるのももう日常茶飯事だし、常日頃から肝に命じている。

二階に上がると大和くんと加州くんが室内干しの準備をしていた。



加「今日も洗濯物多いな…。あと二部屋くらい必要?」


堀「う〜ん…、昨日のもまだ生乾きだしね。隣の部屋もお願いして良い?」


大和「了解」


シ『兼さん、どれから干す?』


和「あんたはこっちを頼むぜ」


シ『はーい』



言われた通り、渡された粟田口の服を一枚ずつ皺を伸ばしながら干していく。前にどれでも良いかと思って手を伸ばしたら寸前で取り替えられたんだよね。兼さんてば顔を真っ赤にしてさ。どうやらあれは皆の下着だったらしい。そりゃ触っちゃダメだよね、うん。

因みに私とクロの服は皆のとは別の洗濯機があって、夜の内に洗濯して部屋に干している。女二人だから嵩張らないしすぐ終わるんだよね。それに比べたら男士の皆は大変だ。装束も重たいし着物とか凄いよね。私には着方も干し方もわからない。だからなるべく現代に近い服をやらせてもらってるんだ。

お、この大きいのはいち兄の服だ!こっちは薬研くんの白衣だね。乱ちゃんのはやっぱり可愛いなぁ。



大和「シロ、そっちは終わる?」


加「手伝おうか?」


シ『大和くん、加州くん。あと一枚で終わるよ』



最後に前田くんのマントを洗濯挟みで吊るして終了!こうして見ると大量の暖簾だね。



加「燭台切さんが善哉作ってくれたんだってさ」


シ『善哉!食べる!!』


大和「はいはい。じゃあ行こう」


加「シロも甘いもの好きだね」



呼びに来てくれた大和くんと加州くんと共に広間に向かう。おやつの時間はいつも皆で広間に集まることが多いんだけど、今日は私たちに加えて光忠さんたち伊達の刀剣しかいないみたいだ。

あれ?
クロと薬研くん以外は皆いる筈だよね?



鶴「皆いなくて驚いたか?短刀たちに誘われて太刀も打刀も本丸内かくれんぼしてるらしい」


シ『本丸内!?』



このだだっ広い建物の中で!?
ここにいるメンバー以外でやってるなんて随分大規模なかくれんぼだ。



燭「隠れる所がたくさんあるから苦戦してるみたいだね」


鶴「しかも鬼は岩融やら太郎太刀やら図体のでかい奴等だからな。それに引き換え隠れる方は短刀脇差…。そりゃ見つけにくいだろう」


シ『へぇ〜面白そう!』


燭「食べ終わったら行ってみると良いかもよ。ゆっくり食べててもまだ暫く終わらないだろうから」


シ『うん!いただきまーす!』



隠れ場所を想像してワクワクしながら善哉をパクリ。あんこの程好い甘味ともちもちの白玉に思わず頬っぺたが緩む。



シ『ふふふ〜。美味しいね伽羅さん』


大倶「…ああ」


鶴「シロはこの本丸に来てから伽羅坊といること多いよな。伽羅坊もいつも慣れ合ってるし。何故だい?」


大倶「……別に」



鶴丸さんに素っ気なく返事した伽羅さんは、最後の一口を食べ終わるとスタスタと去っていってしまった。
「慣れ合うつもりはない」が口癖の伽羅さんは昔馴染みの鶴丸さんたちでも驚くくらい私と慣れ合ってるように見えるらしい。



加「俺も常々不思議だと思ってたんだよね」


シ『加州くんも?大和くんは?』


大和「僕もそう思うよ。僕らだって大倶利伽羅さんとはあまり話したこと無いしね」


シ『ふ〜ん』


燭「…シロちゃんは伽羅ちゃんと話してて何も無いの?例えば雰囲気が怖かったりとか、話しづらかったりとか」


シ『無いよ。楽しい!』


鶴「ほう。そりゃまたなんで?」



なんでか…。なんでだろう?

伽羅さんは確かに口数も少ないし近寄りがたい雰囲気出してるんだけど…、でもなんとなくわかるんだ。どうしてそんな態度をとるのか。憶測だけどね。



シ『たぶん、前までの私に似てるんだろうな』


和「大倶利伽羅があんたにか?嘘だろ?」


堀「全然そんな感じしないけど…」


シ『性格とか根本的には違うよ。だけど、ああして人と距離を取るのは私もやったことあるから』


大和「シロが?」


シ『うん。それもクロに対してかなり酷いこと言ってさ、すっごい大喧嘩したんだ』


燭「主と大喧嘩!?」


加「二人って喧嘩したことあったの!?」


鶴「あの主が喧嘩ってそりゃ凄い驚きだな」



何をしたんだ?と興味津々な皆に苦笑して外を眺める。ザアザアと大粒の雨はまだまだ止まないらしい。

クロは覚えてるかな?たぶん喧嘩だって思ってるのは私だけなんだろう。
昔話…って言っても、皆にとっては瞬きのような数年前の話。


 

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