捌拾壱:あまり気分のよくないことを
思い出させるようで申し訳ないのですが、
三つほど聞きたいことがあります。
薬「三つだとさ、大将。答えられるか?」
『勿論。これまで捌拾も答えてきましたし、だいぶ慣れました』
薬「そらそうだ」
@今、霊力を抑えるチョーカーをしていらっしゃいますが、そのチョーカーをつけた状態だと霊力だけでどんなことがどれほどの力でできるのですか?
(例えば、言霊を使って人の動きを止めていましたが、その他にもそういった特殊な力という方面でできることはあるのですか?
また、言霊は人だけでなく敵にも使えますか?)
薬「あ、これは俺も知りてぇ」
『薬研もですか?』
薬「大将は強さの底が見えねぇからな。言霊で人の動きを止めるのって実際は難しいんだろ?」
『まぁそうですね。結界を作ったり物を壊したりと無機質な物が対象であればそうでもないですけど、生き物はそれぞれ意識がありますから簡単にはいきません。その人の神経を乗っ取る…、操るようなものですから、あまり人に向けて使うことはありませんけれど』
薬「ん?見舞いの時のは?」
『あれは…私も頭に血が上っていたと少々反省しています。でも後悔は全くもってしていません』
薬「!」
『麗華様の自業自得。仕返しに来るなら更なる返り討ちを…』
薬「(やべぇ大将が渾名の通り黒くなっちまう!!)
だ、誰にでも効くのか?言霊って」
『え?ああ、敵にもということなら相手の力量にもよりますが効きますよ。相手の方が強ければ私の霊力が相殺される可能性が高いですし、相手の言霊を私が防げなかったら操られることになるでしょうね』
薬「チョーカーで抑えてる分は関係あるのか?」
『関係ありませんよ。その人本来の霊力の強さに左右されます』
薬「じゃあ、大将はチョーカーを着けた状態だと何がどこまで出来るんだ?」
『うーん…。そう言われるとよくわかりませんね。第一、私の霊力抑えきれていませんし。言霊以外で言うと、資源無しで手入れ出来たりとか。あ、瑠璃様がやったみたいな衝撃波も撃てますよ。あれを今の状態でやれって言うならすぐ出来ます』
薬「…なぁ大将?俺っちが言うことでもねぇけどチョーカー着けてる意味あんのか?」
『意味があるかはわかりませんけど…。でも着けた当初は若干身体が重たく感じましたね。今は慣れちゃいました』
薬「(慣れて良いモンじゃねぇだろうに…)
何か例えられるモンとかねぇか?大将の霊力の状態」
『ええと…。桶とお水とか?』
薬「桶と水?」
『桶が身体。そこに満たした、減ってもまた元の量にまで戻る特殊なお水が霊力だとして、ぴったり嵌まるチョーカーという蓋で圧迫している状態です』
薬「…………」
『普通なら蓋が無いので、いつでもどこでもその桶をひっくり返して、最大限死なない程度にまで水を解放することが可能です。私の場合は桶に蓋をされ更に蛇口がついている…。つまり放出できる量に制限があります。蛇口を捻りきって最大限に解放しようとしたところで、その水量は私にとっては最大ではありません』
薬「!ちょい待て。それいつか無理に解放させようとしたら破裂するんじゃ?」
『さあ?だとしても桶と蓋、どっちが破裂するでしょうね?』
薬「!」
『負けません』
薬「……つよ…」
A逆にそのチョーカーを外すと、やはりもっと出来ることが増えるのでしょうか?
『増えるんじゃないでしょうか?やったこと無いですけど』
薬「曖昧だな」
『術の類を覚える前に着けましたからね。私にもあと何が出来るのかわかりません。でも、養成所で習う術は全て覚えましたし、今の状態でも出来ました。他に知っているのは、瑠璃様が重春様の書斎から勝手に拝借していた古い術書にあるものくらいですね』
薬「(なんかとんでもねぇ言葉が聞こえたような…)
″勝手に拝借した″?」
『はい。「面白い本を見つけたからやってみない?」と誘われて読んでしまったのです。やりませんでしたけどね。悪戯に術を使ってはいけませんから』
薬「大将がその辺まともで良かったよ。因みに何の術試そうとしてたんだ、瑠璃は?」
『丸一日笑いが止まらなくなる術。瞬き出来なくなる術。発言の語尾に必ず「にゃん」がついてしまう術。身体のあらゆる毛が抜け落ちる術。ええと、あとは…』
薬「全部嫌がらせじゃねぇか!!
(しかもどの術もくだらねぇのばっか!)」
『はい。だから言ったんですよ「片付けろ」って。何を考えてあんな術提案してきたんだか…。はぁ…』
薬「(大将、苦労してたんだな…)
…で、その術書はちゃんと書斎に戻ったのか?」
『どうでしょうね?持ち出したのは瑠璃様ですから「きちんと自分で元あった場所に片付けろ」とは言いましたが…。果たして書斎に戻っているものかどうか…』
薬「(片付け苦手だっつってたもんな…)」
B霊力を一度に出し過ぎると、副作用や反動があったりもするのですか?
『通常は眠くなるらしいですね』
薬「…″らしい″?」
『私はなったこと無いので聞いた話でしかありませんが、瑠璃様が衝撃波を放った時に倒れたのはその為です』
薬「つまり大将は出し過ぎたことが無いってことか」
『私の場合はチョーカーに阻まれてる分ちょっと特殊なのですよ。一応このチョーカーにも一度に霊力を解放出来る制限みたいなものはあるのですが…』
薬「さっき言ってた″蛇口″のことだな。抑えきれてねぇんだろ?」
『はい…』
薬「それじゃあ、その制限を越える霊力を発揮したらどうなる?」
『越えたことはありませんから、私にもどうなるかわかりません。そんなに使わないことを祈ります』
薬「そうか」
『(……使う日も来るかもしれませんが…ね……)』