「…わかった」
「きをつけてくださいね、あるじさま」
「はい。では、手筈通りに」
薬研と別れ、私は取り囲む敵を着々と倒しながらそこを目指した。
敵の数はあと僅か。時間遡行軍を相手にする瑪瑙さんの背後に、彼はいた。
「主さん!」
「チ…ッ!」
鍔迫り合いしている瑪瑙さんに向かって突進していく厚藤四郎。瑪瑙さんが今の体勢でそれを避けることは不可能だ。力を緩めれば目の前の敵によって斬りつけられてしまう。
「死ネ!!!!」
ギンッ!!!
「忘れてもらっては困りますね」
「っ、クロちゃん!」
間一髪。彼らの間に入り、厚藤四郎の刃を受け止める。
しかし…
(おも…)
加減も疲れも知らないその重さは時間遡行軍の比ではない。そう長いこと相手をしていられそうもありませんね。
「瑪瑙さん、すみませんが本丸の結界の張り直しをお願いできますか」
審神者のいなくなった本丸全体を包む結界がもうすぐ壊れそうなのは、曇り硝子に皹が入ったように見える空でわかった。このままでは折角歪みを破壊したのに外からまた敵が攻めてきてしまう。
「池の中央の桜の木が源です。私たちは厚藤四郎を引きつけます。タイミングはわかる筈です」
「何か策があるんだね?わかった。
青江!堀川!浦島!遡行軍は任せた!」
「ああ、了解!」
頷いた瑪瑙さんは周りの敵を蹴散らしながら桜の木へと向かっていく。それを横目に確認した私は腕に力を入れ、厚藤四郎を弾いて距離をとった。
しかし、そこで立ち止まってくれるような相手では決して無い。
「コレ、何でしょうか?」
「!!!?」
そこで、スカートのポケットに仕舞っていたソレを見せれば彼の目付きが変わった。
一瞬立ち止まってくれたのを良いことに、私はソレをわざと見せるように持ちながら時間遡行軍のいない裏庭の方向へと走る。
「ッ返セェエエエエエ!!!」
「おお、怖いですねぇ」
「あるじさま、ぜったいこわがっていませんよね?」
「まさか。…、と」
今剣と軽口を叩いていたら横から槍が。言葉通り横槍を入れようということですね。貴方の相手をする時間は無いのですが。
「主、伏せて」
静かに聞こえてきた声に従えば槍の切っ先がヒュンッと頭上を空振りし、更にその上から小夜が槍目掛けて突きを入れた。
消えていく槍の奥から怒り心頭の厚藤四郎が見えた為、私も小夜も立ち止まることはしない。
「ありがとうございます、小夜」
「別に…。薬研と乱は先に行ってる。僕はこのまま主の援護をするよ」
「頼もしいです。お願いします」
多くの時間遡行軍は青江さんたちが引き受けてくれたけれど、少数は私たちを追ってきている。小夜が敵を倒してくれている間に私は厚藤四郎を誘き寄せ、本丸の角を曲がれば…
「油断大敵ぃ!」
「ぅグッ!?」
先に待機してくれていた乱からの飛び蹴りが厚藤四郎の顔面を直撃した。畳み掛けるように薬研が馬乗りになって押さえ付け、腕を捻り上げる。
…因みに私はそんな命令していません。押さえろとは言いましたけど…
「放セ薬研ッ!!放セェッ!!!」
「誰が放してやるかよ。手間掛けさせやがって、大人しくしろや兄弟」
「…………」
薬研がノリノリです。些かやり過ぎな気もしますが…、まぁ良いでしょう。