「こんのすけー」


「クロ様、お呼びでしょうか?」


(本当に来た…)



とりあえず今現在で足りない物等を送ってもらおうかと思い、試しにこんのすけを呼んでみたら出てきてくれた。最初に「呼べば来るよ」と真黒さんに言われていたけど、こんなに早く来るとは…。



「刀剣の皆様とは、まだ和解されては」


「ない」


「ですよね…」


「欲しいもの、送ってくれる?」


「はい、勿論です」



予めメモしていた紙をこんのすけに渡すと「こんなに!?」と驚かれた。でもしょうがない。ここにあるの、錆びてたり汚かったり使えない物ばかりなんだから。



「あと、お腹空いたから食材が欲しい」


「わかりました。畑もまだ耕せていませんしね。作物が採れるようになるまでは政府も援助してくれますので、ご安心ください。朝食は何になさいますか?」


「コンビニのメロンパンと緑茶」


「コ…!?それで良いのですか?」


「ん。それから…」


「なんでしょう?」


「武器が欲しい」


「……………は?」


「なんでも良いから武器が欲しい」


「……あの…何故武器を?」


「出陣するから」


「はぁあああああああああ!!?」



これでもかというくらい口を開けたこんのすけが固まる。壊れたクルミ割り人形みたい。



「ななな何を仰っておいでですか!?」


「ん?出陣するから武…」


「そうでなく!!貴女は人間で女人なのですよ!?」


「そうだよ。男の子に見える?」


「ですからそうでなく!!!」



ギャンギャンと口煩くなるこんのすけ。ダメだ、話が通じない。仕方なく政府から頂いていた携帯鏡を取り出して番号を書く。現代で言う携帯電話だ。

暫くすると鏡の表面に波紋が広がり、相手の顔がそこに映し出された。



「もしもーし」


「どうも、真黒さん」



相手は私の相談相手である真黒さん。瑠璃様のお兄様で、私の義兄にあたる人だ。

今ではお互いにだいぶ砕けた口調で話せるようになった為、出会った当初より仲は良いと思う。私の敬語は抜けきらないけれど。

血の繋がっていない人間の中で私が心を許せる存在の一人だ。
因みにもう一人は瑠璃様だったりする。本人に言うと調子に乗るから言わないけれど。



「久しぶりだねークロ。見送り出来なかったからどうなったかと思ったけど、無事に本丸に着いたんだね。あと、″真黒さん″じゃなくて″お兄ちゃん″でしょ?」


「黒本丸ですけどね。上司に″さん″付けは基本です」


「相変わらずお堅いねー、敬語も抜けないし。
そーそー、黒本丸ね。まったく、クロみたいな女の子にそんなとこ任せるなんて…酷い話だよねー」



うんうんと腕を組み眉間に皺を寄せて言う真黒さん。ぶっちゃけ初対面の時の面影が全く無い。私みたいな女の子って何ですか?



「で?何か用があったんじゃないの?」



そうだ、本題本題。



「武器が欲しいです」


「は?武器?」



刀剣男士は?と訊ねてくる真黒さんに、今の本丸の状況を事細かに説明した。
勿論、昨日の今日で全員と和解なんて出来る筈もなく、資源も朽ちていることも話せば、真黒さんは片手で顔を覆い深い溜め息を吐いて項垂れた。



「はぁ…。本丸監視部は何やってんだか」


「そんな部、ありました?」


「あるよー。月に一回だけ本丸の状況調査みたいな感じで政府から一人派遣されることになっててね。前任の解雇はそれで決まったんだけど…。にしてもそこまで酷い状態だとは」



それ、本当に月一で調査されてたんですか?年単位でもされてたのか疑いたくなるくらいボロボロなんですが…。



「んで、武器ね。刀剣が心を開いてくれるまではクロが出陣すると?」


「はい。資源も足りないから手入れも出来ません」


「あー、そのチョーカーもあるしね」



このチョーカーさえ外せれば、資源を使わずとも霊力を解放して昨日以上に彼らを治すことが出来るというのに。自分で外しちゃいけないのが歯痒い。

つけている状態だと身体に物凄く負担がかかるから、なるべくは資源を頼りたいのだ。



「まぁ、そういうことならわかったよ」


「真黒様!?よろしいのですか!?」


「あ、いたのかこんのすけ」


「!!!」



あ、しょげた。ちょっとだけ可哀想だったから抱っこしてモフってあげた。



「クロの身体能力は審神者養成所でもピカイチだったしね。瑠璃を追い越した実力者だし、その辺は私も買ってるから特別に許可してあげるよ」


「ありがとうございます」


「うんうん。あと、刀剣たちの手入れ用の資源も送っとくから、クロが出陣するにしても簡単なとこだけね。果敢に挑みに行くのは良いけど死んじゃったら意味無いんだから。まぁクロなら大丈夫だろうけどさ」


「了解しました」


「そんじゃ、ボックスに転送するから待っててね」



ばいばーいと言って通信が途絶え、鏡には自分の顔が映った。すぐに送ってくれるみたいで良かった。



「はぁ…。クロ様も真黒様も無茶苦茶なのですから…」



くれぐれも無茶しないでくださいねと言って、こんのすけはメモを口にくわえてしゅるんと消えた。政府に戻ったのだろう。苦労してるんだね、こんのすけ。させてるのは私だけれど。


さて、私はボックスに行くとしよう。

ボックスというのは本丸の蔵のことで、どういう仕組みなのかは知らないけれど、政府から取り寄せたものがそこに届くようになっている。
たぶんこんのすけも物が揃ったらここに送ってくれる筈。

長い廊下を進み、ボックスに着いてその戸を開けると中は…予想はしていたけれどやっぱり凄く汚かった。物は少ないけれど砂埃やら蜘蛛の巣やらでおどろおどろしい。

そんな中で、一番奥に埃も被っていない鈍色に光るそれが送ってくれた武器だろう。

…真黒さん?確かに私は武器を送って欲しいと言いましたが…これってどうなんでしょう?



「でか…」



私の背丈ほどの大きな刀、大太刀だ。真っ黒で何の装飾もついていないそれが、待ち構えているかのように地面に刺さった状態でそこに存在している。

……大太刀は振り回したこと無いけど何も無いよりは良いか。

てくてくとそこまで歩いて行き、両手で柄を持つ。
この大太刀も顕現するのだろうか?と思ったけれど、特に何も起こらなかった。

地面から引っこ抜いて改めて観察する。刃渡りは140cmくらいか。重いかと思ったらそうでもなくて、寧ろ初めて持ったのにしっくりと手に馴染む。

顕現できなくてももう意識は持ってたりするの?

それはわからないけれど、これからこの刀には私と戦ってもらうことになるんだ。



「…よろしく、お願いします」



おでこを付けてそう呟いた。
応えるように鞘が鈍く光ったのを、私は知らない。



 

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