三日月宗近様の考えが読めなくて薬研と鶴丸も少し警戒しているようだけれど、当の本人はゆるりと目を細めて横にあるゴミを見下ろした。



「まぁ、まずはやるべき事をやるのが先か。燃やしながらでも話は出来るからな」



燃えるのを見ながら話そうと言っているようだ。彼の真意はわからないけれど、夜になる前には燃やし尽くしたいのでマッチで火をつける。

布団から襖に燃え移り、どんどん大きな炎へと変わっていくのを四人並んで眺める。



「…礼を言う」



隣に立つ三日月宗近様を見上げれば、彼は燃えていくそれらをじっと見つめていた。穏やかな微笑みはそのままに。だけれど瞳には、炎のせいか喜怒哀楽様々な感情が映っているように見えた。



「いや、礼の前に謝罪からか。昨日はこちらから誰一人として挨拶をしていなかったからな。初対面でのあの態度…すまなかった」


「構いません。貴方たちが前任から受けてきたことは聞いていましたし、元から長期戦覚悟で来ましたから」


「はは、そうか。ならば礼の続きだな。俺は前任に夜伽ばかり命じられていてな、あやつがいなくなった今、あの部屋の存在だけが俺たちの心を縛り付けていた」


「…………」


「その女は俺たちを名で縛り、更に自分の欲望ありのままをぶつけてきた。吐き気がしたのは俺だけではあるまい。長い年月を経てようやっと顕現出来るようになったというのに、この世は地獄だと思い知らされた気分だった。だから女が解雇処分となった時は解放されたと思ったのだがな…、この本丸からは出られなかったのだ。何故だかわかるか?」


「……結界ですか?」


「やはり気づいておったか」



昨日結界を張り直す時、桜の木に前任の力が残っていた。前任の性格がどうであれ、力は強力だったらしい。だから彼らは前任がいなくなっても外に出ることが叶わなかった。
外からの侵入も内からの外出も許さない。この本丸は外界との接触を断たれた鳥籠状態だった。



「絶望とはこういうことかと打ちのめされた。中には暴れようとする者もいたが、そんなことをしても審神者の結界が破れることは無い。そして残った審神者の部屋も、遠目で見るだけでも嫌な記憶を呼び起こす。故に誰も広間から出ることは無くなり、次期審神者を名乗る者たちも認めず追い払ってきたのだ。このまま前任の力が無くなりただの刀に戻るのを待つ。そう思い始めたところで来たのがお主だ」


「?」


「初めは俺も警戒していた。だが、お主が本丸の結界を張り直し、空気を浄化したことによって広間にいた者たちの顔色が明らかに変わった。重苦しかった空気が軽くなり、傷の痛みも和らいだのだ」


「でも、浄化しかしていませんが?」


「それが凄いことなのだ。本丸は審神者次第で空気も環境も変わる。桜が咲き誇り、心地好い風が吹いているなど、この本丸では見られなかったことなのだ。故にお主が前任とは違うということは昨日の内にわかっていた。だが…」


「?」


「やはり前科があるとな…なかなか気を許すに至らなかったのだ」



それは仕方の無いことだと思う。審神者で…女の私との接触は過去の傷を抉ることに等しい筈。更にはその下につくなんて、再び地獄に落とされるのだと絶望するのは当然のことだ。

なのに、この刀は私と話したいと言ってきた。気を許さないと今さっき言ったのに。
それはつまり、少しは警戒を解いてくれたと思って良いのだろうか?最終的に、彼は何を言いたいのだろう?



「しかし、いつまでも前任という枷を理由に閉じ籠っていては、お主に礼を言うことすら叶わん。前任の部屋を取り壊すお主たちを見てやっと決心がついた」



パチパチと火花の音だけが聞こえる中、黙って次の言葉を待っていると、彼はやがてゆっくりと瞬きしてから私に向き直って口を開いた。



「俺の名は三日月宗近。打ち除けが多い故三日月と呼ばれる」


「存じております」


「…………」


「…?」



どうしたのでしょう?なんか困ったような顔をされた。変なこと言ったっけ?



「大将、大将」


「はい?」


「敬語、やめてほしいってことだと思うぜ。あと旦那が自己紹介したのは名前で呼んでほしいからだ」


「え?」



そうなのですか?
でも、まだ私のこと信頼するまでには至っていないと思うのだけど…。

すると、鶴丸は三日月宗近様へと耳打ちする。残念ながら私には聞こえなかった。





「三日月、俺もそうだったがこの子には言いたいことちゃんと言わないと伝わらんぞ。それに、前任の時だって君は意思表示をしなかっただろう?」


「……そうだな。そのせいであやつの悪行が長引いたと言っても過言では無い」


「いや、そこまでは言ってないが…」



 

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