暫くそうされていると、やっと苦しいものが無くなってきた。
「…ん……けほ、はぁ……。ありがと……、ございます……」
お礼を言いながら相手を確認すると、軍服みたいな格好の黒髪の男の子がいた。
その藤色の瞳と目が合うと、彼は苦虫を噛み潰したような顔をして背ける。不本意だったと言いたげだ。
そりゃそうだ、まだ私が危険か否かも判断出来てないだろうに。
もう一度気分を落ち着かせる為に息を吐き、こうなった元凶である部屋を見やれば……
「…………」
さっき近づいてきたもう一人の足があり、見上げると……、なんとまぁ、ペンキでも被ったのかというくらい真っ白な人がそこにいた。
「……どちら様ですか?」
「俺を見て第一声がそれか」
だって……ね? この黒髪の子もそうだけれど、刀剣男士ってこと以外知らないものは知らないし。
でも、お礼は言わなきゃいけませんね。
「ありがとうございます」
「は?」
「閉めてくれて」
襖が閉まっている。それに加え、中の様子はもう見えないというのに彼は襖の前に立って遮ってくれていた。
「優しいんですね。ありがとうございます」
「やさ……っ!? 俺はそんなつもりじゃ……!」
「わかっています。でも、助かりました」
「……っ!!!」
「貴方も。擦ってくれて、だいぶ楽になりました。ありがとうございました」
「……別に。俺はただ、目の前であんな苦しんでるのを放っておけなかっただけだ」
「嬉しかったです」
「……!」
赤くなったり目を丸くしたりとそれぞれ反応は違うけれど、今すぐ私をどうこうしようという意思は無いらしい。
でなければ、こうして助けたりしないもの。
立ち上がって再び襖を見る。おぞましい空気が漏れ出ていて気持ち悪い。
「…………」
さっきの光景を思い出す。この部屋の内装だけで、刀剣たちが何をされてきたのか、わかりたくないことまでも想像するのは容易いことだった。
「同情はいらねぇぜ。そんな感情向けられるだけ迷惑ってもんだ」
真っ白い人が忌々しげにそう言う。けれど、何を勘違いしているのやら。
「同情なんてしません」
「……は?」
「辛かっただろうとは思いますけれど、同情されるだけ迷惑なのは私にだって理解できます」
同情を向けられるなんて虚しいだけ。そんなの嫌と言うほど味わった。
どんなに辛く悲しい思いをしたかなんて人それぞれだし、刀剣たちだってそれは同じ。完璧に共有できる感情なんて無い。
「なら、さっさと出ていってもらおうか。俺たちは審神者に心を許す気なんてさらさら無いんでな」
「それは無理です」
「何故だ? 政府の命令だからか?」
黒髪の子も訝しげな顔でそう問いかけてきた。同情するでもないのに留まる理由は何だ? と。
「命令……もありますけれど、理由は貴方と同じです」
「?」
「目の前で苦しんでいる貴方たちを放っておくことはできません」
「……っ!」
傷ついているだろうとは想像していたけれど、それを遥かに上回る重傷。放っておけばそのうち勝手に折れてしまいそうなほど脆く、刃物としての鋭利さを無くした刀剣たち。
彼らはまだ心を許してくれないだろうけど、弱っていくのを黙って見ているつもりは無い。
「それに、私事ですが少しばかり政府に怒りが沸きました」
「は?」
私がここに送られたのは偶然では無いらしい。遠回しにわざわざこんなものを見せるだなんて、重春様たちは相当私をお気に召さないようだ。
私をぶっ壊したくて堪らないと言っているようなもの。
「……上等。壊れてやるものか」
「……!?」
「お、おい?」
「あ。私、今日から離れで生活しますので」
「は……?」
「ご用の際はそちらに来てください。それから……」
ポケットに忍ばせていた打粉を取り出し、呆けている二人の顔にポンポンと数回当てる。今は資源が近くに無いから自分の霊力だけでなんとかする。
資源があれば、それを霊力に変換して与えることが出来るのに……。贅沢を言えないこの状況を作った政府と前任が憎い。
終わって打粉を仕舞うと我に返った真っ白い人(……真っ白さんと呼ぼう)が顔を真っ赤にして、今ポンポンしていた顔に手を当てた。
「な、にを……!」
「僅かばかりですが、お礼です」
「……! 傷が……」
「それでは」
「あ……」
今ので少しは楽になっただろうか? やはり私の霊力だけで完治させるには時間が足りない。資源って大事だと実感。
でも、倉庫にあるのは屑みたいなのしか無かったし、政府と連絡を取ったところでこの本丸に送ってくれるとは……。
となると、資源を増やす方法は……
「……出陣するか」