その後は大将が戻ってくるまで他愛もない話をした。
昔はどんなだったとか、シロは現代じゃわからねぇことを知りたがってたが、大半は彼女が知ってる大将のことばかりを語っている。
大将は甘味が好きで茶と和菓子には目がないんだとか、柚子の飴が好きだとか、動物に好かれやすく顔馴染みの野良猫の友達がいるんだとか。
楽しそうに話すシロからは、大将のことが大好きなんだという気持ちが伝わってくる。
「あっ、あとねぇ。クロって人によって口調が変わるの知ってる?」
「そう言えば…、僕らには敬語だけど瑠璃って子の時はタメ口って言うより男口調だよね。シロは妹だから普通にタメ口みたいだけど」
「命令する時も男口調だな。何か理由あんのか?」
「理由ってほどのものでも無いんだけどね。私とはタメ口でずっと話してきたからそのままで、敬語は大人とか他の人と話す時の癖。別に慣れてないからとか余所余所しく使ってるわけじゃないよ。命令で男口調になっちゃうのは、自分が主だっていう自覚を持つための戒めみたいなものかな」
「戒め?そんなの必要なの?」
「その辺はしっかりケジメをつけておきたいんだって。付喪神様に従ってもらうんだから主としての威厳を持たないとってさ」
「へぇ」
まだ年端もいかねぇ女子なのに大したもんだ。
「じゃあ、瑠璃相手の時は?最初は敬語なのに指摘されて直してたよね」
「そうだな」
「あー、あれはね」
「瑠璃に対しては敬語が定着してたから慣れてないんだよねー」
「出てけ病原菌!!」
ボスンッ!!
「ぐはっ!!」
「「!!?」」
な…、何が起こった…?
現状を見るに、布団の上ではさっきまで座ってた筈のシロが立ち上がって何かを投げた後のような体勢になっており、彼女の睨む先…開けられた扉から見えるのは仰向けに倒れた男と、それを見下ろす別の男。倒れた男の顔には枕が乗っている。
…枕投げつけたのか。
全然見えなかったぞ?あんた本当に病人か?
呆気にとられてる内にシロは再び座り直し、『見なかったことにしてね?』とそれはそれは恐ろしい笑顔で言った。頷く以外に出来ねぇが忘れられねぇぞこれは…。
「大丈夫ッスか先輩?」
「ってて…。もー、シロはお茶目が過ぎるんだから」
「…真黒の旦那だったのか(お茶目なのかこれ?)」
「顔真っ赤」
あんな速度で投げつけられりゃ赤くもなるだろうな。痛そうに鼻を擦りながらむくりと起き上がった男、真黒はもう一人の男と一緒に部屋に入ってシロに枕を返し、俺たちに「さっきぶり」と言って笑った。
シロはぶすっと膨れて枕を抱いている。″嫌い″なんてもんじゃねぇ、旦那のこと″大嫌い″なんだな。
さっきは見えなかったがこっちの男は審神者のようで、近侍としてついてきたらしい鶴丸の旦那も現れた。
「あれ?クロは?」
「大将なら"じゅーす"ってやつ買いに出てるぜ」
「あー、席外してもらってた感じ?もしかして邪魔しちゃった?」
「"もしかして"じゃなくて邪魔よ!超邪魔!せっかく楽しくお喋りしてたのに!!帰れゴキブリッ!!!」
「ぅわ…先輩ゴキブリだったんスか?ダメじゃないッスか病原菌が病院来ちゃ」
「ちょっと待った!何を真に受けてるのかな!?ゴキブリでも病原菌でもないからね!?」
「ははっ、"病原菌"呼ばわりとは驚きだねぇ!」
「……薬研…」
「あー……」
…どうしよう。真黒の旦那の酷い扱いは置いといて状況が何も掴めねぇぞ。どうすりゃ良いんだ?
シロと旦那の噛み合わないやりとりが続く中、俺たちは途方に暮れながら大将の帰りを今か今かと待ちわびていた。
ガラ…
「戻りまし…」
「クローーっ!!」
むぎゅっ
「た…?」
「遅いよ主!」
「待ちくたびれたぜ…」
「??どうしたんで………ああ」
「私を見て納得しないでくれるかな!?」
「随分早いですね。約束の時間まであと二十分ありますよ?まさか本当に仕事放棄して来たんですか?」
「先輩、仕事放棄したんッスか?審神者にあーだこーだ言えねぇッスよ?」
「ちっがああああう!!!」