「背筋が凍るようでしたよクロ様!ヒヤヒヤさせないでください!!」
「寒かった?ごめんね。今度温かいきつねうどん作ってあげるから」
「是非戴きます!ってそういう意味ではなく!!」
「きつねうどん、嫌い?」
「大好きです!!!…っいえ、ですからそうではなくてですね!!!!」
「大将、楽しんでるとこ悪いが話が進まねぇ」
「私も戴きとうございます、ぬしさまのきつねうどん」
「話がややこしくなりますよ小狐丸殿」
腕の中でギャンギャンと喚くこんのすけをモフりながら足は速めに動かしているのだけど、私たちの使う演練場はなかなかに遠いらしい。広すぎるのも困りものですね。
そういえば前に瑠璃様がワープパネルなるものが欲しいとか言っていたような…。政府の新技術に期待しましょう。ちょっぴりですけど。
「さて、皆さん演練頑張りましょうね」
「…主、最後に言ってた一言だけど、まさか本当にあの子たちとも演練するの?」
しかめっ面で問い掛けてくる光忠に大和守も同意だと頷く。
その隣を歩く小狐丸は拳を握り締めており、五虎は小虎を一匹腕に抱いて涙を堪えていた。そんな五虎の頭を薬研がポンと撫で、一期も困ったような表情を浮かべている。
「"また後で"なんてさ、会うこと前提で言ったよね」
「勿論そのつもりで言いました」
「しかし、先程の騒動があれば私たちが演練相手に選ばれるとは…」
「そこは心配要りませんよ。こんのすけ」
「はっ、はい!」
「最初の演練相手はあの桃色髪の子でしょ」
「!?」
「えっ?」
「なっ!?」
「あ…"後で"ではなかったので?」
「先程の騒動の"後で"ではあるでしょう?」
こんのすけもバッと私を仰ぎ見た辺り図星のようだ。ただの勘だったのだけど、もうちょっと隠し方上手くなった方が良いよ?
「な、何故わかったのですか?」
「もし違う相手だったならこんのすけはあの場で姿を現して止めていた。私たちだけを案内すれば良いんだから」
でも実際は対戦相手同士の騒動で、野次馬たちもそれなりにいた。そこにこんのすけが出てきて私とあの子たちを誘導すれば、全員ではないにしろ野次馬も引き連れていくことになる。
特にあの野次馬たちの瞳は楽しいものを見るように輝くものや、遠目から関わりたくないと思いながらも見たいという好奇心から興味を示すものばかり。
それでは演練どころではなくなり、こんのすけたち政府側からすれば運営が滞ることになる。
「はぁ…、仰る通りです。まったく、わかっていらっしゃるならもっと早くに場を収めてください。あんなに煽ってどうするんですか」
「だからこそ演練相手に相応しい」
「は?」
「あれだけ言えば本気で相手してくれる」
私が演練相手だとわかれば本気で勝ち取ろうとしてくる筈。本気の手合せができるなら本望です。
「挑発する必要は無かったんじゃ?」
「いえ、あのまま挑発もせず別れていればそれこそ演練中も好き放題やられてしまいます。審神者だって術くらい使えますからね。特に彼女たちのような周囲の目を気にしない者が術を扱えば何が起こるかわかりません」
だから言ったのだ、"正々堂々と"と。ああ言っておけば刀剣たちに"勝て"と命令は下っても自分で戦闘に干渉してくることはしないだろう。余程の馬鹿でないことを祈りますが。
…これでこちらも本気で相手してやれる。
「私の愛刀たちを"お下がり"呼ばわりするなんて不愉快です」
「っ、そこじゃないでしょ!」
「?」
「主、自分が言われたことわかってる?外来語でもすぐにわかったよ、あの言葉」
「ああ、私への言葉なんてどうでも良いです」
「どうでもって…」
所詮は赤の他人が私に抱いた感情。知人だったなら反発するなり反省するなりしたけれど、見ず知らずの人間ならばどう思われようと知ったことではない。
「全ての人に好かれようだなんて思っていませんし、彼女たちは偶々私が気に入らなかっただけです」
私にだってそういう人はいますから、気にするだけ無駄です。というよりも好き嫌いがあるからこそ人間的で良いと思う。
「何も言われないということは関心されていない、つまりそのものの存在を認めていないということですから」
「!主…」
「そういう意味では、言われたのがあんな言葉でもあの子たちは私の存在を認めているということになります」
まぁ不本意でしょうけど。でも仕方ないですよね、人間ですもの。
「ははっ、随分と前向きな捉え方すんなぁ大将」
「そうですか?」
「ああ。…で?大将が胸に抱いた本当の感情は?」
目を細めてニヤリと口角を上げる薬研は疾うにわかっていたらしい。私が何を思っているのか、どうしてあんな発言をしたのかを。
散々言いたい放題言われた末に私が言ったのは「正々堂々演練しよう」という一言だけ。それだけなのにもう理解してしまったとは、さすが私の近侍です。
「"勝つ"」
「!?クロ様…?」
私が抱いたのはあの子たちへの闘志のみ。
「私のやり方にケチつけるだけなら耳も貸さなかったが…、その矛先を愛刀たちに向けるとは良い度胸だ。近侍を侮辱されたことも腹立たしい」
彼らは私の刀だ。他の誰のものでもない私の愛刀。
あの場では平静を装ったけれど、危うく自制が外れるところだった。危ない危ない。
「喧嘩上等。目には目を。歯には歯を。審神者同士なら正々堂々と演練で勝負といこうか。嫌だと言うなら今の内だぞ?」
元はといえば私たち審神者の争い事。彼らを巻き込むつもりは毛頭無い。あの子たちに彼らを差し向けるのは勿体無いくらいだもの。
演練相手が彼女だと知って、それが嫌ならばこのまま棄権して帰るも良し。その時は何か別の方法で勝負するのみ。
しかし、彼らは先程の不安そうな表情から打って変わって、まるで獲物を捉えた獣のような目で笑っていた。
「大将が戦う気満々なんだ。俺たちが引き下がるわけねぇだろ?」
「まったくだね。本当に君は格好良いんだから」
「首、落としちゃわないように気を付けなきゃ」
「初の演練、楽しみです」
「踊って参りましょう。ぬしさまに捧げる狐の舞を」
「勝ちます…絶対に…、主様のために…!」
おやおや、珍しく五虎も小虎たちもやる気に溢れているようだ。終わったらご褒美用意してあげよう。
「今日は"負けない"じゃねぇんだな?」
「勿論。貴方たちが負ける筈がない。必ず勝つと信じている」
「光栄だ」
演練場はもう目の前だ。
さて、勝ちに行きましょうか。
「あ!いたいた、クロー……!?」
「燭台切の旦那!このまま突っ込むぞ!!」
「オーケー!あんなに格好良い子が主なんだ、格好良く決めないとね!!」
「痛いですよ!ほら!!」
「吉光の名は伊達じゃない!!」
「痛かったら、言ってください!でも手加減しません!」
「首落ちて死ねぇ!!」
「うわ…」
「なんか…クロちゃんの刀剣たち熱気が凄いね」
「刀剣もだが、クロネコのあの眼光ヤベェだろ。相手の審神者が怯えたウサギみてぇだぜ?」
「んー…、あれはキレる一歩手前かな。終わるまでそっとしときましょ」
「…あの瑠璃がそう言うってことは…」
「相当ヤベェんだな…」