小虎を追って本丸の裏に回り、林の中を進むこと数分。青々と繁った草木の間を縫いながら、小虎はちらちらと私を振り返りつつ歩いていく。

動物とは思えない賢さにびっくりです。そしてまたもやくっつき虫が…。帰ったらまた毛繕いですね。

敷地はそんなに広くない為、そこへはすぐに辿り着いた。



「……あんたは…」



気配でわかったのだろう。厚藤四郎様は足元にあるそれから私へと顔を向けた。



「初めまして…と言うべきでしょうか。私はこの本丸の審神者で、審神者登録名をクロと申します」


「…審神者…。じゃあ、俺の中の霊力はあんたのか」



胸に手を当て、中に流れている霊力を確かめる彼は再び足元を見やる。

簡易的にしか作れなかったそれは、あの任務で持ち帰った彼らのお墓だ。



「墓、作ってくれてありがとな」


「いいえ。本当はあの本丸内に埋葬してあげたかったのですが…」


「政府が修復すんだろ?仕方ねぇって。俺のことも、助けてくれてありがとう」



ははっと乾いた笑みを浮かべてしゃがんだ彼の横顔には影が落ちていた。青みがかった銀色の瞳に映るのは、お礼の言葉とは裏腹な感情。



「…………」



…前にシロも同じ目をしたことがあった。あれは、発作を起こした彼女を介抱した後に、お礼を言ってきた時。あの時のシロも心の底では全く反対のことを思っていた。



「逝きたかったですか?″いち兄″と共に」


「っ!」


「貴方の″いち兄″や彼らと同じように、破壊してほしかったですか?」



寄ってきた小虎を抱き上げ撫でながら問うと、彼はあからさまに肩を震えさせた。



「っ、ああそうさ。破壊してほしかった。いち兄も皆も折られちまったのに、大将も死んじまったのに、なんで俺だけが生き残ってんだって今も思ってる」


「…………」


「力の強いあんたのことだ、大将のこともわかってんだろ?」


「貴方に触れて、少しですが伝わってきました」





──たすけてくれ…



──いち兄を…



──みんなを…



──俺たちの大将を…



──この…本丸を…





家族を助けて欲しいと懇願する声。その中には、審神者を救ってほしいと願う心も確かにあった。



「貴方の主は、出陣で敗北が重なることに苛立っていたわけではありませんでした。政府から来た人間に、言霊で狂わされていただけ。貴方も他の刀剣の皆様も、それをわかっていらっしゃったのですね」


「ああ。だから俺たちは何度も大将に呼び掛けた。刃を向ける奴なんているわけねぇ。心の中は優しい大将のままだってわかってたから。…大将も、狂いながら自分で折った刀剣を悲しい目で見つめていた」


「…………」


「いち兄が折られた時、目の前に大将の手が迫ってきて俺も折られるんだって覚悟した。大将はもう戻らない。それならもう構わないって思った。俺が折られることで大将に掛けられた言霊が…、呪いが解けるならそれでもって。でも…っ、次に見えたのは大将の腹から出てきた刀の切っ先…。大将の背後にはあの男が笑って立っていた。大将はあいつに殺されたんだ…!」



地面を殴り付け悔しそうに唇を噛む。



「何が起こったのかわからなかった。頬に生温かい血が飛んできて、大将は最期に「すまない」って一言だけ呟いた。男は大将を斬り捨てて言ったんだ」





「お役目ご苦労様、審神者くん。やっと準備が整ったよ。ああ、厚藤四郎くん。君にはまだまだ働いてもらうよ」





「「あの子を狂わせる良い材料になるかもしれないからね」って、嫌な顔して消えてった」


「…………」


「そこから先はあまり覚えてねぇ。あんたたちと戦ってたのも途切れ途切れにしか…。気づいたらここの手入れ部屋にいて、なんとなくここに来てた」



墓を作ってくれるとは思っていなかったと漏らしながら、彼は少し膨らみのあるその土を撫でた。



「それに、ここの誰かに見つかるのはちょっとな…。だから少しの間逃げようと思って」



特にいち兄とか…と苦笑を漏らす彼は複雑そうだった。


 

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