「!し、重春…」



今日は来訪者が多いですね。今度は重春様ですか。

審神者たちが開けた道を通って役人の前まで向かう彼はいつもと変わらぬ威厳たっぷりの表情。彼を前にして顔色を変えない人物は殆どいないだろう。強いて言えば私たち四人と真黒さんと麗華様くらいじゃないだろうか?

役人の顔はまるでカメレオンの如く真っ赤から真っ青に変化し、目も合わせられないのか俯き勝ちに縮こまっていく。

さっきまでの態度はどうしたのでしょう?人ってこんなに変わるんだなぁと客観的に思った。



「っ、愚民とは酷いですな。私は皆の安全を考えて…」


「そうだな。最初こそお前が皆を思って提案したことだと信じ、クロに着けさせた。だが、今回は反対させてもらう」


「!?何故っ!!情が移ったのか重春!!」


「情…、それもあるかもしれんが、違うな」



すっと目を閉じ次に開いた彼と目が合って、一瞬呼吸が止まった。

重春様が笑った。

ほんの少しだけど、瞳に優しさが映り込んでいるように見えたのだ。私を見る時はいつも怒っているような厳しい顔しかしなかったのに…。



「あの双子は今は亡き私の旧友の娘たちだ。これ以上酷な扱いはできん。"我が娘"として見ることはしないが、"愛する友の娘"として預かったのでな」


「重春様…」


「だったらもっと早くに助けなさいよね」


「シロってば…」



シロの言うことも尤もだけど、少しは警戒が薄れたようだ。あまり話をしてこなかったからわからなかった。

重春様が抱いていた想いも、私たちに対する気持ちも。そして、父さんを友人として愛してくれていたことが知れて嬉しく思う。



「重春…っ!」


「それと、少々裏もとれてな。お前も歴史修正主義者と繋がりがあるものと疑いが掛かった」


「なっ!!?」


「蘇芳、何か知っていることはあるか?」


「…、はい。その人は私が過去改変を望んだ時に力添えをした方です」


「蘇芳ッ貴様!!」


「最早お前に逃げ場は無い。観念しろ」



重春様がパチンと指を鳴らすと、それが合図だったようで政府の警備員たちが続々と現れ役人を捕らえていく。あの一人の役人だけでなく、共に行動していたことで全員が疑われているらしい。

連れて行けと命を下すと彼らは抵抗する間もなく政府へと連行されていった。一緒に真黒さんも蘇芳を連れて行き、彼らの姿が見えなくなると重春様も用は無くなったのだろう。私たちを一瞥して背を向け帰っていった。

シンと静寂が訪れ、はぁぁ、と深めの溜め息を漏らす。



「お、終わったの?終わったんだよね?」


「ああ、終わりだ」



乱の問いに薬研が答えると皆さんドッと疲れが押し寄せてきたらしい。揃ってその場に座り込んだり仰向けに倒れたり…。

なんだか見たことある光景ですね。…ああ、瑠璃様が初めて訪問して帰っていった後ですね。刻燿が顕現した時もこんな感じでした。懐かしいです。



「クロ!!」


「?わっ」


「おっと」



シロに呼ばれ振り向いた途端に抱き付かれ、バランスを崩して倒れ込んだ。その背を薬研が受け止めてくれて尻餅をつく程度で済んだけれど、シロは相変わらずくっついたまま。それどころかぎゅうぎゅうと腕の力を強めてくる。

心なしか震えているのを感じ、私も彼女の背に腕を回してポンポンと擦った。



「シロ」


「本当にもう、終わったんだよね?もう大丈夫なんだよね?」


「うん」


「もう苦しくない?」


「うん、苦しくない」


「痛くない?」


「痛くないよ」


「クロ、ほんとに…」


「もう全部終わった。自由になれたよ」


「っ、ふ、うぅぅ…っ怖か…っ」


「よしよし、怖かったね。無理させてごめんね」



私の肩に顔を埋めて一向に顔を見せてくれないけれど、しがみついて放さない彼女がボロボロと泣いてくれているのがわかった。

ずっと病院にいて外になんて暫く出ていなかった彼女が私の元まで来てくれて、しかもそこは戦場。大和守たちをつけていたとは言え、さぞかし怖かったことだろう。

シロを心配してくれたのか、加州と大和守、第三部隊として彼女を守ってくれた六人が周りに集まってきた。



「主」 


「加州、第三部隊長お疲れ様でした」


「!へへ、これくらい当然でしょ!」


「大和守も、ずっとシロの傍にいてくれてありがとうございました」


「うん。でも、本当に連れ出して大丈夫なんだよね?」


「大丈夫です。ね、シロ?」


「うぅ、ぐすっ、大丈夫だよ、ふぇぇんっ」


「あーあー、顔ぐしゃぐしゃじゃねぇか」


「うぁぁぁん、兼さんがいじめたぁ」


「兼さん?」


「いじめてねぇよ!!」



おやまぁ、和泉守たちとは初対面だった筈なのに。随分と早く仲良くなったものだ。



「五虎と鳴狐も、ありがとうございました」


「は、はい!」


「あるじどのもお疲れ様でございました!」


「…怪我、無い?」


「大丈夫です」



さて、特に大怪我した者はいないようだし、手入れと疲労回復さえすれば皆さんまた元気になってくれるだろう。

いつまでもこうしてはいられない。それはやっと自由になった喜びからも来るのだけれど、それよりもまず最も重要なことをやり遂げなければならないからだ。



「皆さん。お疲れのところ申し訳ありませんが、手入れをしますので順番に並んでください」


「何言ってんだよ、相当疲れてんのはあんただろうが」


「和泉守の言う通りです。我々よりも先に主がお休みに…」



…?和泉守はともかく長谷部までこの反応?
もしや皆さんお忘れですか?



「…お気持ちは有り難いですしそうしたいのは山々ですが、現在私たちのお家は文字通り焼け野原です」


「「「「「……………」」」」」


「……回れ右しましょうか」



私の言葉に揃って回れ右した彼らの目にも同じものが映ったことだろう。

蘇芳に放たれた火によって建物は全焼。雨風を凌げるようなものは厩以外には無く、中央にあった頑丈そうな柱も、偶然にもたった今ひゅぅぅと吹いた風によって倒れ、ただの木炭と化した。



「「「「「……………」」」」」


「床を整えようにも床がありません。手入れ部屋も資材も跡形もありませんので、暫くは私の霊力のみで手入れする他ありません。すみませんが全員手入れが完了次第本丸の建て直しです」


「「「「「えぇえええええっ!!!!?」」」」」



不満はわかりますが仕方ないのです。政府の所属でも無くなりましたから自分たちで全てやり直しです。



「うわぁ〜本気ですか?」


「一難去ってまた一難…」


「ですが、政府には僕も頼りたくないです」


「そうですな。もう主が苦しめられるのは懲り懲りです」


「…やりますか」


「そうですね」


「うん…」


「ちょっと待った!!君たちタフ過ぎでしょ!?」



さぁ手入れをしようかというところで瑪瑙さんから待ったが掛けられた。周りを見れば同じような驚いた顔や呆れ顔が勢揃い。そういえばまだ審神者さんたちも帰ってないんだった。



「お礼が遅くなって申し訳ありません。審神者の皆さんも駆けつけていただいてありがとうございました。後日改めてお礼に伺いますので、後のことは大丈夫です」


「ンなわけあるか阿呆」


「あんたは人に頼らなさすぎよ!まぁ今までのことがあったからしょうがないんだろうけどさ…、あたしたちにくらい頼みなさいよね!」


「そうそう、何の為の仲間?俺気に入った子としか組まないんだよ?」



そう言う三人に加え、見ず知らずの審神者さんたちからも声が上がる。そのどれもが否定ではなく、寧ろ「手伝わせて!」とか「お礼するのはこっちだ!」とか、私を受け入れている声。

…正直、どうしたら良いのかわからない。



「私も、貴女には亜弥がお世話になりましたしお礼がまだですからね」


「さっきので十分ですよ。役人さんのことでもう…」


「何を言う、まだまだ足りぬぞ。力仕事なら俺も力添えしよう」


「政府のことは頼るんじゃなくて使いなさい。酷いことされてきたんだからさ。おにぃだってそう言うと思うし、もしまた変なことしようモンならあたしだって黙ってないわ!」


「瑠璃…」


「てめぇの場合は口より先に手が出るもんな」


「うっさい!」


「建て直しなんて審神者の仕事じゃないよ。政府には俺たちも目を光らせておくしさ、クロちゃんたちは暫くお休み」



ぽんっと頭を撫でられた。暖かい言葉ばかり掛けられて戸惑う。

本当に良いのだろうか?こんなに大勢の人に囲まれて、頼って良いのですか?

迷惑になるような気がしてどうしても次の言葉で終われない。



「でも休む場所なんて…」


「大丈夫!俺の本丸、部屋空いてるから使って良いよ」


「ちょっと!あんた男でしょ!?泊まるならあたしのとこ来なさい!」


「因みに瑠璃嬢の本丸は一言で言うなら物置だ」


「よろしくお願いします瑪瑙さん」


「オッケー」


「クローッッ!!」



あははと笑う周りの様子に、やっといつもの調子が戻ってきたような気がする。自分の本丸も纏めていた書類も何もかも燃えてなくなってしまったし前途多難な状況からは奪回できていないけれど、彼らと一緒なら大丈夫だと肩が軽くなった感じがした。



「ありがとうございます」










一から全てやり直し。

再出発を後押しするように、新しく吹いた風が私たちの背を撫でていった。


 

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