赤くてトロトロの液体の入った小瓶を片手に、俺は主の部屋に向かう。

これは本丸を修復して少しした頃に、主が俺を部屋に呼んでこっそりくれた真っ赤な爪紅だ。



「加州は赤が似合いますね」



そう言って、初めて手入れしてくれた時と同じように、頼んでもいないのに俺の手をとって塗ってくれた。丁寧に斑無く俺の爪を彩ってくれる主。
すごく嬉しくて、出陣も内番もこれがあるから…主がずっと傍にいてくれる感じがするから頑張れるんだ。

でもやっぱり爪紅はその内剥がれちゃうものだから、毎日でも塗れるようにと主は小瓶ごと俺にくれた。それはそれで嬉しかったけど…でも……



「あーるじ!また爪紅塗ってくれない?」



部屋に着いて開きっぱなしだった襖から中を覗くと主は書類整理をしていたみたいで、机に紙の山を積み上げていた。
…危なくない?それ。
邪魔しちゃったかな?

出陣して爪紅が剥がれかけたから、今度は俺から駄目元で頼んでみた。本当は自分でも出来るけど、主にやってもらいたかったんだ。その方が愛されてるって…、愛してくれてるんだって実感できるから。

自分でやりなさいって言われるかな?
呆れちゃう??

内心ビクビクしながら待ってたら、主は自分の隣に座布団を敷いてぽんぽんとそこを叩いた。つまり…



「!やった!」


「手は洗いましたか?」


「当たり前でしょ!」



爪紅塗ってもらう為に爪の中まで綺麗にしたんだから!
後でお礼に書類整理手伝おうっと!

主の小さな手が俺の手を乗せて、親指から丁寧に赤で染めていく。

真っ白で細い指だなぁ…。
でも主の手って肌荒れとか凄いんだよね。水仕事してるとそうなるって光忠が言ってたっけ。…主のはどう考えても洗濯とか食事当番手伝ってるからだよね。

以前の俺なら「もっと女の子らしく肌には気を遣って!」とか言ってたんだろうけど。でも今は、こうして優しく触れてくれる主のこの手が好きなんだ。

主が俺の手を好きって言ってくれたのと同じように。



「いつ見ても加州の手は綺麗ですね」


「!!」



「綺麗…」




──また…言ってくれた……

──出会った時に言ってくれた……

──俺を救ってくれた言葉を……


 

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