「ねぇ主!主はクリスマスプレゼントに何が欲しい!?」
「え…?」
加州くんと大和守くん、乱くんに前田くん、五虎退くんが目をキラキラさせて主に詰め寄ってきた。
主は今、僕と一緒にクリスマスケーキを作っている。この大所帯で流石にケーキ1つではあんまりだと僕がケーキ作りを志願すれば、主も手伝いに現れてくれたんだ。
ご飯を作る時もそうだけど、こうして厨で一緒に過ごす時間はある意味僕の特権なのかもしれない。
一応主が本丸に就いてからは食事当番が毎日替わるようになった。でも僕は手の空いている時は自ら厨に立つようにしている。これまでの癖っていうのもあるけれど、やっぱり僕が作ったものを皆に食べてもらうことが嬉しいというのが大きい。勿論、主にもね。
ほぼ毎日僕が食事当番に入ることに対して、主も「苦じゃないなら構いません」と言ってくれた。更に彼女も料理は好きな方なのだろう。お菓子を作りに来ることもあるし、たぶん僕は薬研くんの次に彼女といる時間が長いと思う。
…あ、長谷部くんもかな?
僕がスポンジの生地を作っている横でシャカシャカと手際よく泡立て器を動かす主だったけれど、加州くんに問い掛けられるとゆっくりとその手を止めた。
「プレゼント…」
と呟きながら宙を見る彼女は何を考えているのだろう?
そうして暫くして再び手を動かしながら出した答えは…
「…何でも良いですよ」
……主、本当に何を考えていたの?
「えぇ〜!何が良いかわからないから聞いたのに!!」
「主さんが喜びそうなものって思いつかないんだもん」
頬を膨らませる二人に対し、前田くんと五虎退くんは顔を見合わせて苦笑した。
どうせなら主が欲しいものをと思ったんだろうけど…
「僕にも思いつかないな」
「一生懸命考えて選んでくれたものなら何でも嬉しいです」
「う〜ん、それが難しいんだけど…」
「物じゃなくても良いんですよ」
「物じゃなく?」
「どういうことですか?」
「例えば、七夕の時のように飾りつけをしてくれるだけでも嬉しいですし、今のように私のプレゼントを考えてくれているだけでも私は幸せに感じます」
「もうっ、主は禁欲的すぎるよ!!」
「と言われましても、それが事実ですし…」
「うぅ〜っ何かないのぉ〜?」
頭を抱えて悩み始める加州くんたちに主は困ったように視線を下げた。
最近は表情に少しずつ表れてきている主の感情。でも僕たちではまだまだ理解することは出来ないらしい。助け船を出してあげたいんだけど…
「第一部隊、戻ったぞ…って、何やってんだ?」
ナイスタイミングだ薬研くん!!
主に報告に来たのだろう薬研くんは厨の様子を見て小首を傾げた。
まぁ…カオスだよね。甘い香りのする中で、主は困ってて加州くんたちは顰めっ面で悶々と考え事をしてるんだから。
「お帰りなさい、薬研。お怪我は?」
「大丈夫だ。誰も傷ついちゃいないが、今剣の刀装だけ無くなっちまったからまた渡してやってくれ」
「わかりました。お疲れ様です」
「おう。…んで、何なんだこの状況?」
「聞いてよ薬研!!」
呆れ顔で彼らを指差す薬研くんに、バッと顔を上げた乱くんがこれまでの経緯を説明した。
そんなに気にするような内容でも無い…のかな?でも主のプレゼントをどうしようかってことだし、僕ら主の刀剣にとっては重要なのかも。
聞いていた薬研くんは初めこそくだらないとでも言うように半目だったけれど、チラッと主を見て何かを察したのか眉を下げて笑った。
「…成る程な。大将の物欲が無いから悩んでたってわけか」
「そうなの!最初はあっと驚くプレゼントをあげようと思ってたんだけど、主さんの欲しいもの全然わかんないんだもん!」
ぶすーっと膨れっ面で言う乱くん。
でも薬研くんは…
「そうか?」
同意せず、寧ろ簡単だというような表情で笑った。
「!薬研はわかるの?主の欲しいもの」
「ああ」
「本当ですか!?」
「な、何が良いんでしょう?」
「猫関係のもの」
「へっ?」
ね、猫?
まぁ確かに主は猫好きだけど、ここでそれを提案するの?もっと特殊なものを想像してたんだけど…。
「!!そっか!主、猫好きだもんね!」
「はい」
「じゃ、買いに行こうか」
「よーし!万屋に直行ー!!」
「あっ、待ってください乱兄さん!」
「ま、待って…!」
バタバタと出ていく加州くんたちを見送る。やがて足音が聞こえなくなると薬研くんはやれやれと肩を竦め、主はほっと息を吐き出した。
「ありがとうございました、薬研」
「いいや。あれで良かったか?」
「バッチリです」
「え?どういうこと?」
僕だけさっぱり話が見えないんだけど?何がバッチリなの?猫関係のプレゼント?
「大将が本当に欲しいプレゼントは、"大将のことを考えている皆の時間"だ」
「え…?」
主のことを考えている時間?意味がわかり兼ねて主を見ると、彼女は果物を切りながら語ってくれた。
「…クリスマスプレゼントって言われても、私は欲しい物なんて何も思い浮かびませんでした。貰ったことなんて両親がいた頃だけでしたし。今ではシロ用に何かを買って真黒さんに届けてもらうので私は"あげる側"です」
「…………」
「なら、私が彼らにしてもらって嬉しいことは何か?考えて浮かんだのは七夕の時のことや、「欲しいプレゼントは?」とわざわざ聞きに来てくれた今です。何れも私のことを考えてくれている時だから…」
「"主のことを考えている時間"…か。じゃあ薬研くんが「猫関係のもの」って言ったのは?」
「ああして何もわからずに考えてたって大将が困るだけだからな。悩ませて罪悪感も感じてたみたいだし。何かしら大将の好きなものに関係するプレゼントなら、あいつらも考えてて楽しいだろ?言葉は悪いかもしれんが、一石二鳥ってやつだ」
成る程…。薬研くんは主の困り顔を見たあの一瞬でそこまでわかってたんだ。僕には困ってるってことしかわからなかったのに、その心情まで察してあげられるんだから薬研くんは本当に凄い。
「さて、光忠もそろそろ焼き始めませんと夜までに間に合いませんよ?」
「あっ!そうだね!」
いけないいけない、僕がスポンジ作ってるんだった。いくら主がクリームと果物用意してくれてたって土台が無ければケーキにならないよね!
ケーキ作りを再開すると薬研くんも着替えてから手伝いに来てくれて、食事当番の堀川くんと一期くんも現れて厨が一層賑やかになった。
そんな暖かな空間で主がいつもより楽しそうに微笑んでいるように見えたのは、きっと気のせいじゃないよね?