やがて空は墜ちる



ケイジとハルカは青い部屋を出た後、様々な場所を探索してみたが、特にこれといった情報は得られずただただ時間だけが進んでしまっていた。
どうしたものか…もう一度娯楽室の赤い部屋が開くかどうか調べようか、と話し合っていたところにジョーが慌てた様子で走ってきた。

「ハルカさん!ケイジさん!食堂の奥の部屋に来てくださいッス!」

それだけ言うと、再びジョーは走り去って行った。
恐らく他の人達にも声をかけに行っているのだろう。

「全部そろったって感じかなー」
「…組み立てないと進まないし…行くしかない、ですよね…」

そういえば、先程アルジーから言われた“ ここからが本番 ”という言葉を、ケイジに話していなかったことを思い出した。
人形を組み立てた時、本番が始まる可能性もある。
念の為、伝えた方が良いのだろうか……

「ケイジさん…みんなところに行く前に…聞いて欲しいことがあります……」
「ん?告白かい?」
「ち!ちがッ!」

思いもよらない返しに、驚きが隠せなかった。
ついどもってしまったが、そんな姿を見たケイジはケタケタと笑っている。

「そんなに否定しないでよー。冗談でも悲しいよ。」
「………」
「あれ?怒っちゃった?」
「…ケイジさん、なんか…慣れてる感じが…ちょっと、やだ」

ハルカが少し不貞腐れながら言うと、今度はケイジが黙り込んでしまった。
…また変なことを言ってしまったのだろうか。
首を傾げながらケイジを呼ぶと、ハッと我に返ったようで、明後日の方を見ながら首を押さえていた。
あー…これは……と何やらブツブツ独り言を言っている。
埒が明かないので、こほんっと咳払いをすると話を戻すことにした。

「先程、アルジーに言われた事なんですけど…“ ここからが本番 ”だと……」
「ここから、ねえ…気をつけておくことに越したことはないね」

話してくれてありがとう。と頭をポンッと叩くと、食堂の奥の部屋へと向かった。
ハルカたちがピンクで統一された部屋に着く頃には、全員が集まりきっていた。
どうやら最後だったようだ。

こじ開けれそうなものを探しに行っていたソウも、無事に集まれていたようだ。
レコの発案で、何が起きても逃げれるように扉だけは開けっぱなしにしながら、人形を組み立てることにした。
ケイジには先程なにか起きるかもしれないと伝えてあるため、恐らく大丈夫かと思うが…ここからが本番、か…
鼓動が少し早くなる。

「それじゃあ 運命の瞬間…いくぞー」

ケイジは置かれた人形の胴体に手際よくパーツを取り付けていく…
右手…左手…右足…左足と順番に…
そして最後に頭をくっつける。
少しの間、静寂が部屋を包み込んだ。
何も起こらない…?そう思った時だった。

「…待て 何か匂わないか?」
「…え…?」
「なあ…周りが白くなってきてないか!?」
「ど…毒!?まずいよ…部屋を出なきゃ…!」

しまった。組み立てること自体が罠だったのか。
今更気がついても遅い。
人形の近くにいたケイジが危険かもしれない。

「…ッ!ケイジさん!」

ハルカは必死に手を伸ばすも、一瞬にして真っ白なガスが部屋中を覆い尽くした。
伸ばしていた手の先すら見えない。
もしも、これが本当に毒ガスだったら…全員助からないだろう。
折角アルジーから忠告してもらったのに…死を覚悟したその時、明るい声が部屋に響いた。

「皆さん 毒ガスなんかじゃないから安心してくださいね」

聞きなれない声に目を開き、目を凝らす。
次第にガスは落ち着き、みんなが生きていることに安堵の息をついた。
目の前には先ほど直した人形が私たちをみて笑っていた。

「あはは こんにちは」
「は…はぁ!?お…お前…人形じゃないか!!」
「ふふふ…そう あなた方がたった今救ってくれた人形です。高性能でしょう?」

自分は夢を見ているのではないかと思ってしまうほど驚いた。
みんなも混乱しているようで、まともに現状を受け入れることが出来ていない。
彼女はサポートをするために蘇ったと言い出した。
だが、みな驚愕や恐怖で話を聞く余裕が無い。

「あはは…はぁ…誰か冷静にお話しできる方はいませんかね…」

やれやれ、と人形はため息をつきながら言った。
ここは話を聞かないと進まなさそうだ。
ゆっくりと深呼吸をしてから、人形に声をかけた。

「…私、聞きます……」
「私も聞きます。あなたは何者なんですか?」
「おまわりさんにも頼むよ。イマイチ話が読み込めなくてねぇ…」

冷静なサラとケイジも一緒に話を聞くようだ。
すると人形は嬉しそうに微笑んで自己紹介を始めた。

「えへへ では自己紹介から…ふふ 私の名前は笑い人形 ホエミー。このフロアで皆様をサポートする人形です。んふ 既にいくつかの試練を乗り越えたツワモノの皆様に、メインゲームへ誘導するよう 主に言われております」

主…つまり、彼女は誘拐犯側のようだ。
楽しそうに話すホエミーの態度に、レコさんがわなわなと震えながら怒鳴った。

「笑ってんじゃねぇ!!ぶっ殺してやろうか!!」
「ふふ…いやですね… またバラバラになるのは……」

そう言って、彼女は不気味に笑った。

「うふふ…そうだ…先にバラバラにしてしまえばいいですよね…」
「…どういうこと…?」
「あははは。見せしめってやつですかね…」

楽しそうに笑っていたホエミーが、途端にニタリと笑った。
見せしめ…まさか……
突如ヴーッとハルカの首輪から音が鳴った。
驚いて自分の首に手を当てるが、振動と音を感じる。
間違いなく、この音は私の首輪から鳴っている…。
ジョーが何をしたのか問い詰めると、ホエミーは更に笑みを深めた。

「あはは、首輪が爆発するだけですよ あはは、あは」

首輪が、爆発する…
周りがざわめく音。それを楽しげに煽るホエミーの声。
衝撃的な言葉なはずなのに、頭の中はやけに冷静だった。

……本当に爆発するのだろうか。
バラバラにされるのが嫌だから、先にバラバラにする?
この部屋は広いとは言いきれない。
小さな爆発でも多少なりともホエミーに被害はあるはずだ。
バラバラにされたくない人形が、自らもタダでは済まない行為を行うだろうか。
この場の主導権を握るための発言だとしたら…?

ハルカはすっと目を細めてホエミーを無言で見つめた。
すると音は何事もなかったかのように収まった。

「へえ 表情を変えないとは…あは、あはは。面白いですね、ふふふ」






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