光の届かぬ世界



「どこ…ここ…?」

目を覚ますと、見知らぬ部屋にいた。
見たことも無い、ベッドと扉しかない6畳ほどの何も無い部屋。
ぼんやりとする頭をおさえながら起き上がってみると、一枚の紙がヒラヒラと落ちた。

なんだろ、これ…?
落ちた紙を拾いあげると、聞き慣れた電話の音が激しく部屋中に響き渡った。


ー…音声案内を開始いたしますー
ー…これより、最初の試練を行いますー

なに、試練って…
未だにぼんやりとする頭で音声案内を聞いた。

ー…ハルカさんには、先程配布した問題を解いていただきますー

ー…制限時間はたっぷり1分です。
…もしこちらが設定した制限時間を超えても解けなかった場合、天井の装置が起動し、天井が落ちて圧死しますー

ー…では、スタートです。ー

「…は???」

状況がよく分からない。
問題とやらを解けなければ死ぬってことか?
音声案内のスタートと同時に天井が大きな音を立てて近づいてきた。
本当に天井が落ちてくるなら時間が無い。
ハルカは急いで拾った紙に目を向けた。


問題を解け。
1+4=5
2+5=12
3+6=21
8+11=?


なんだ、これ。ちょっと簡単…?
ハルカは記入欄に答えを書き込むと、大きな音を立てていた天井は止まり、目の前の扉はゆっくりと開いた。

…助かった、のかな?
それにしても、なんなんだ。ここは。
イタズラにしては度が過ぎている。本気で殺そうとしていたのか。

…まぁいいや、とりあえずこの部屋から出てみよう。
扉の先はどこまで続いているのか全く見えないほど、あかりひとつ無い暗闇だった。
この先に出口はあるのだろうか…。
不安を感じながらもハルカが歩き出すと、突然ガコンッと足元から大きな音がし、突然の浮遊感が襲った。

あ、やっぱり終わらないですよね、はい。
何となく察してました。そんな簡単じゃないですよね。

長い長い浮遊感の中、ハルカは再び意識を飛ばした。



◇◇◇



「…ぇ…、…て…」

誰かの声が聞こえる。
身体を軽く揺すられる感覚に、徐々に意識が浮上した。

「ぅ…」
「あ、目が覚めた?」

目を覚ますと、見知らぬ金髪の男の人が顔を覗き込んでいた。

…だれ…?
ぼんやりと男の人を見ていると、起きてる?おーい と目の前で手を振られた。

「あの…起きてます、たぶん」
「…そうみたいだねぇ。目が覚めてよかったよ。」

立てるかい?と手を差し伸べてきた男の人に手を伸ばすと、ゆっくり腕を引いて立ち上がらせてくれた。
しかし、足に力が上手く入らず、男の人に倒れ込んでしまった。

「おっと…大丈夫かい?」
「すみません…上手く力が入らなくて…」

なんとか男の人が抱きとめてくれたおかげで、転ばずにすんだ。
ごめんなさい、と男の人を見上げると、男の人は一瞬動きを止めた。
不思議に思い首を傾げると、大丈夫ならよかったよ、と頭を撫でられた。
男の人にもたれかかってる状態で頭を撫でられるなんて…初めての経験に、今度はハルカが固まってしまった。

「さて、みんながいる方に行けそうかな?」
「みんな…?まだ、他の人がいるんですか…?」
「あぁ、そうだよ。…そういえば、名前言ってなかったね。オレは篠木敬二。これでも一応警察官だよ」

男の人はケイジさんというらしい。

「私は…天霧春香です。高校3年生です。よろしくお願いします、ケイジさん」
「こちらこそ。さ、ハルカちゃん行こうか」

ケイジさんは腕を掴んでも良いからね、と此方に合わせてゆっくり歩き出した。
とても紳士的で困惑する。
こんなにも優しくしてもらって大丈夫なのだろうか…?
先程よりも足に力が入るようになったが、ケイジさんの言葉に甘えることにした。

ケイジさんの腕、太いなぁ…手も大きかったなぁ…
ゆっくりと歩いてくれているケイジさんをじっと見つめた。

「そんなに見つめられたら、おまわりさん穴が空いちゃうよ」
「あ…ごめんなさい…」
「冗談だよ。ただちょっと恥ずかしいだけさ」

ほら、見てて面白いものでもないでしょ?と表情を変えずおどけるケイジに、ハルカは そうですか?と小首を傾げた。

「ケイジさん顔が整ってるので…ずっと見てられますよ?」
「は…?」
「あ…ごめんなさい。いきなりこんなこと言ったら気持ち悪いですよね…忘れてください」

失敗した。失敗した。
つい、うっかりして言ってしまった と落ち込んで俯くと、ケイジさんは私の頭を撫でた。

「いや、そういう事じゃなくてね…?あー…ハルカちゃん、あまりそういう事は、他の人に言っちゃダメだよ?」
「…?なにか、悪いこと…いいました?」
「んー…いや、なんでもないよ。おまわりさん、ハルカちゃんみたいな可愛い子に見つめられると、照れちゃうよってこと」

さぁ、先を急ごうか。
ケイジさんはそう言うと、私の手をとると歩き出した。
嫌われて、ないんだ。というか、か、かわいい…?私が?初めて、言われた。可愛いだなんて。冗談でも、嬉しいと思ってしまった。
ケイジさん…とっても、不思議な人だな。
ハルカは繋がれた手をじっと見つめ、少しだけ握り返した。




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