忘却とメランコリー



少し歩くと開けた場所に出た。
ケイジさんの後ろに隠れつつ周りを見てみると、私たち以外にも数人集まっているようだった。

「ガァァ!!私達は拉致されたんだ!イカレた連中に!!」
「うるさいニャン!!近くで騒ぐなワン!!」
「ちょ...ちょっと...ケンカはよくないよ」

皆混乱しているようだ。
やはり、拉致されたのだろうか。
ハルカは目覚める前の記憶を思い出そうとしたが、自分が何をしていたのか全く思い出せなかった。

何故、記憶が無いんだろう…
不思議に思ったが、まぁ、そのうち思い出すだろう。と、繋いだままであったケイジの手を離した。

「あれ。もう大丈夫そう?」
「はい…ありがとうございました」
「いいよ。しんどくなったら、また掴んでもいいからね」

ケイジは再度ハルカの頭を軽くポンポンと叩くと、集まっていた人達に声をかけ始めた。
さて。どうしようか。
ぼーっと周りを見てみると、尋常じゃなく怯えている子がいた。
私より年下…中学生くらいだろうか。
ふらふらとした足取りで、女の子に近づいた。

「…大丈夫?」
「…ぁ、、あぁう…ぅぅ」
「ゆっくり…息して?」

ハルカは声をかけると、そっと女の子の背中を撫でた。

「…ぁ、…ぅう」
「…そう、…ゆっくり…」
「…ぁ…ありがとうございます…」

女の子は先程よりも落ち着いたようで、なんとかお礼を言えるくらいまで話せるようになった。
しかし、まだたくさん話すのは難しいだろうと思い、ハルカは背中を撫で続けた。

「…えらいね」
「…!…ぉ 、ぇ、ちゃ…」
「え…?」

「……よーし。みんな、話を聞いてくれ」

女の子が何か言ったが、小さい声で聞き取れなかった。
ハルカは聞き返そうとしたが、ケイジが全体に向かって声をかけたため、後で聞き返そう。とケイジの方に顔を向けた。

「多分オレ達は皆、同じことを思ってる。ここはどこなんだ?なぜ自分は連れてこられたんだ?分かっているのは自分が何者か…くらいだ」
「何が言いたいのでしょうか……?」
「自己紹介をしようじゃないか。お互いの不信感を少しでも払おう」
「自己紹介…ですか」

ケイジの突然の呼びかけに、皆の視線が集まる。
みんな不振そうにケイジを見つめていたが、ケイジは気にする素振りも見せず頷いた。

「それしかないだろう。ね?サラちゃん」
「え…私に振られても…というかサラちゃん"は止めてください」
「ならなおさら自己紹介するべきだねー。他に呼ぶ方法がないんだから」
「そ、それは……まあ…」
「でしょ。えー…つーワケで、オレ達はお互いをよく知るべきだと思いまーす」

ケイジはサラと呼ばれた女の子に声をかけ、自己紹介を進行してもらうよう言った。
それぞれが自己紹介を始める中、ハルカはその光景を怯える女の子の背中を撫でながら眺めていた。

みんな、職業も捕まり方もバラバラだった。
なんの共通点も無い人間を集めたのだろうか…?
しかも最初の試練も違う人がいた。なぜ、試練の内容が違うのだろうか。…何の目的で集めた?
ボーッと考え事をしていると集まっていた人達は全員言い終わったのか、こちらに振り返った。

「じゃあ…」
「ハルカちゃん、大丈夫そうかい?」

サラとケイジがハルカに声をかけた。
もう自分の番か…と女の子を撫でる手を止め、集まった人たちの方を向いた。

「あ…名前は天霧春香…高校生です。捕まる前は…記憶が無い、です。」
「記憶が無い?」
「はい…最初は混乱しているからかな、って思ったんですけど…未だに…思い出せたら言います」
「そうか…」

すみません…と謝ると、サラは謝らないでくれ!と申し訳なさそうに言った。
気を使わせてしまって、本当に…申し訳ない。

気まずい雰囲気のまま、怯えていた女の子の番になった。
最後の一人。先程より落ち着いたのか、女の子はゆっくりと話し始めた。

「あの…私…木津池 神奈って言います…」
「(だいぶ、話せるようになった…よかった…)」

名前を言えるぐらいには落ち着いたようだ。
安堵したのも束の間、カンナは最初の試練の話をしている最中に気を失ってしまった。
どうやら一緒に居た姉が、試練により亡くなってしまったらしい。

最初の試練。あれは本当に…殺すつもりだったのか。
実際に亡くなった話を聞くと、冗談ではなかったんだと思わざるを得なかった。
カンナは…目の前で姉が殺されたんだ。

「(ごめんね…嫌なこと、思い出させて……)」

せめて、夢の中では幸せであって欲しい…。
そう思いながらハルカは、気を失ってしまったカンナの頭を撫でた。




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