常闇に響くは銃声



みんな、どんどん話し合いを進めて行った。
誰がチャレンジャーに相応しいか。その理由はなんなのか。
現在はサラとQタロウのどちらがチャレンジャーになるか話し合いをしている。

遠目から話し合いの内容を聞いていて、ふと疑問が浮かび上がった。
なぜ、ケイジさんは立候補しないんだろう。
リボルバーを見つけた時もそうだ。
サラちゃんに渡してみたら?と自分は所持する気が全くなかった。

「あの…」
「どうしたんじゃ?ハルカ」
「思ったんですけど…どうしてケイジさんはチャレンジャーに立候補しないんですか?」

今まで会話に入らなかったハルカが、みんなが疑問に思っていたことを発した。
そうだ。なんで冷静な判断が出来そうで、職業柄慣れているはずのケイジが立候補しないのだろう。
みなが理由を問いただすが、ケイジは口を噤んだままだった。

このままでは埒が明かない。
ハルカは檻から両腕を出すと、近くにいるケイジの服を強く引っ張った。
バッと驚いたように振り返ったケイジの頬に両手を当て、できるだけ優しく声をかけた。

「…どうして、黙ってるんですか?」
「………」
「黙っていたら…分からないです。みんな…真剣に、この問題を打開しようとしているんです。」
「…………」
「…私を、助けてくれるんじゃなかったんですか?」
「…!」
「なんて…私の事なんてどうでもいいんです。…例え、チャレンジャーになれない理由が何であろうとも…誰も貴方を傷つけることはできない。私がさせない…だから、」

貴方のことを、教えて。
ケイジにしか聞こえないほどの声量で、ハルカは囁いた。
目を見開き、驚きを隠せない表情のまま固まったケイジの瞳をハルカの瞳が捉える。
コバルトブルーの瞳から目が離せない。吸い込まれそうなほど…綺麗な、色だ。

「はっはっは…すごい殺し文句だな。おまわりさん、参ったよ…そうだな。説明させてもらうよ」

力なくケイジは笑うと、なぜ立候補しなかったか説明を始めようとしていた。
まさか本当に話してくれると思っていなかったハルカは、いいんですか?とケイジを見つめながら問いかけた。

「女の子にそこまで言われちゃったらね。男が廃るでしょ…オレは人を撃ってしまったんだ。それ以来…銃が持てなくなっちまった」

情けないね、とケイジさんは苦笑いをした。
やはり…トラウマがあったのか。
少し顔色の悪いケイジの頬を撫で、話してくれてありがとうございますと言い、顔から手を離した。

「だから…立候補できなかったんですね…」
「…やれやれ。こんなこと言わされるとはねー。ハルカちゃんも罪深い子だね。…けど…まぁ 気は楽かな」
「そう、だったんですね…」

サラは伏し目がちに言葉を探していた。
なんと言えばいいのか…無理に聞いてすみません?ありがとうございます?
どう言ったら正解なのか、言葉が出てこない。
そんなサラを他所に、Qタロウはケイジに声をかけた。

「…トラウマってことか…」
「…期待に応えられなくて ごめんごめん。…あれ以来、人に銃を向けると 頭が変になって汗が止まらないんだ」
「…そんなやつにゃあ…任せたくねーわな」
「…そ、それじゃあサラに賭けてくれるのか?Qタロウさん!」
「ま、待ってくれ!やっぱ不安じゃ!!命なんだぞ!?賭けるものは!!」

どうやら、話は徐々にまとまってきているようだ。
あとはQタロウさんを説得するだけかな…。
終わりが近い討論に、ハルカは小さく息を吐いた。

「ケイジさん…ありがとうございました。私のわがまま、聞いてくれて…」
「いや、いつかは言う日が来たかもしれないしね…ハルカちゃん」

名を呼ぶと、じっとケイジを見つめるコバルトブルーの瞳。
光が宿っていない、薄暗いコバルトブルーのはずなのに、目が離せない。

「……?」
「君は…とても不思議な子だね。本当にJK?」
「老けて見えるってことですか…?」
「はっはっは…ちがうちがう。君に見つめられたら、おまわりさん なんでも話したくなる気分になるよ」

この感情の全てを…目の前の平凡な女子高生に懺悔したいだなんて。
…絶対に助け出してあげる。だから、安心して。
フッと口元を弛めながら、ケイジはハルカの頭を優しく撫でた。

そうこうしてるうちにサラかQタロウ、どちらがチャレンジャーに相応しいか多数決をすることになった。
結果的にはサラがチャレンジャーに選ばれ、アルジーからのルール説明が始まる。

「" ハルカがさっき この部屋で弾丸を見つけたよな?そして別の部屋でダミーの弾丸も見つけたはずだ "」

サラは確認するようにポケットから6つのダミー弾丸を取り出す。
それと同時にハルカはリボルバーと実弾をサラに渡した。

このゲームは簡単に言えばロシアンルーレットだった。
的の人間に実弾が当たれば負け、当たらなければ勝ちということだ。
しかも当てる場所は額。
もしも実弾が当たった場合…死は免れないだろう。
辺りに緊張が走る。

「“ それと、だ。ハルカの居る檻の下には穴があってな。もしも 負けた場合、ハルカは落ちることになる。一生会えなくなるぜ ”」

気をつけることだな。
そう言い笑うアルジーに、さらに緊張が走った。
着々と、リボルバーに弾を込めていく。

「っ…」
「サラちゃん、落ち着いて。…大丈夫、サラちゃんなら出来るよ」
「ハルカ…ありがとう」

サラは大きく深呼吸をすると、リボルバーを構えた。
どこからかゴクリ…と息を飲む音がする。
それはハルカ自信だったのかもしれない。

ハルカは神に祈るように、絡め合わせた両手を口元に寄せた。…祈ることしか出来ない己の無力さを感じながら。

辺りが静寂に包まれる中、サラはゆっくりと引き金を引いた。




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