暗闇の終わりが見えない



一発また一発となるたびに肩を震わせる。
被害が少ない自分が目を瞑るのは気が引けたため、ずっと祈りながらサラたちを見ていた。
何分たった?いや、実際にはそんなに時間がかかってないのかもしれない。
しかし普段の倍以上、時が過ぎるのが長く感じた。

最後の一発を撃ち終わると、サラは膝から崩れ落ちた。
……みんな、無事だったのだ。
まさか本当に誰も死なせないとは。
アルジーはとても興奮したように話し始めた。

「" お…おお…おおお!お見事!よくやったじゃないか!文句なしであんたの勝ちだよ!
どうやらこんな謎解き楽勝だったみたいだな!実に鮮やかだ!オレの右手にふさわしいぜ!

ってことで右手やるぜ "」

ボトッと何かが落ちた音の後、サラの絶叫が耳を劈いた。
どうやら人形の右手が落ちてきたようだ。
ハルカは緊張の糸が切れ、へにゃへにゃと座り込んでしまった。

「(誰も死ななかった…よかった……)」

大きく息を吐くと、じんわりと目頭が熱くなった。

なんで…私が泣きそうになってるんだ。
頑張ったのはサラちゃんとみんなだ。
私が泣く資格なんてないはずなのに…。
早く涙を引っ込めなくては…絶対に誰にも見られてはいけない。

そう思い俯いていると、檻の扉が開く音と肩に温もりを感じた。
驚きのあまりバッと振り返ると、立膝をついたケイジがハルカの肩に手を置いていた。

「大丈夫かい、ハルカちゃん。」
「け、ケイジ…さん」

ケイジと目が合った。
漆黒の瞳を見つめていると、止めようとしていた涙が止めどなくホロホロと流れ始めた。
やってしまった…止めようと思っても、心とは裏腹に涙は止まることを知らない。
ケイジの息を呑む音がする。
なんで泣いてるんだと思われたかもしれない。
少しでも泣いているのを隠すため涙を拭おうとした時、ケイジに優しく抱き寄せられた。
突然の事で先程まで流れていた涙がピタッと止まる。
離れようとしたが頭を撫でられる感覚に力が抜ける。

「…よく、頑張ったね。…本当は怖かったよね」

ケイジの優しい声にホロッと再度涙が頬を伝った。
私は泣き虫じゃないのはずなのに。
優しい声と温度が、心を溶かしているようだ。

「わ、わたし…なにも出来なかった…傷つけることしかできなくて、ごめんなさい……」
「そんなことないよ。ハルカちゃんが居なかったら、おまわりさん 過去のこと話せなかったかもしれないでしょ」
「そんなこと!ない!…きっと、その時は…サラちゃんが……」
「そうだね。サラちゃんだったら、できるかもしれないね。でも、今、オレに過去のことを話そうと決意させたのは…紛れもないハルカちゃんだよ」

ちゃんと、キミも頑張ってるんだよ。
バッと顔を上げると優しく微笑むケイジの顔があった。
おずおずと背中に腕を回し、ケイジにしがみついた。
生きてる。生きてる。

「みんな…生きててよかった…!」

ケイジは泣き止むまで、ハルカの頭を撫で続けた。


◇◇◇



数分後、ハルカは比較的早く泣き止んだ。
恐る恐る回していた腕を解き、ケイジの顔をじっと見つめた。

「お。もう大丈夫そうかい?」
「ご…ごめんなさい…」
「いや、いいんだよ。役得だったし。」
「……?」
「あ、いや、なんでもない。じゃあ、行こうか」

ケイジはハルカの手を取り、立ち上がらせると歩き始めた。
ケイジさんと手を繋ぐことにだいぶ慣れてきてしまったな。今ではこの温もりが無いと寂しいと思うほどに。
檻から出ると、Qタロウが入手した腕を持っていた箱に入れているところだった。

「あ!ハルカさん!大丈夫でしたか?」
「おー無事だったかや」
「すみません…ご迷惑をおかけしました…」
「あれは1席足りない時点で誰かが捕えられる事になっていたでしょう。あまり気になさらない方がいいかと。」

カイも捕まったことには仕方がないと思ってくれていたようだ。
ほっと一息つくとケイジから離れて、今回の立役者であるサラの元へと向かった。

「サラちゃん」
「ハルカ…無事でよかった」
「サラちゃんのおかげだよ。…ありがとう。」
「いや、私は…当然のことをしたまでだ」

久しぶりにも感じる穏やかな時間を過ごすと、ケイジはそろそろ行こうか。と声をかけてきた。
もうこの部屋には人形の身体は無いだろう。
ついて行こうとした時、ジョーがケイジに話したいことがあると言い、2人だけで外に出てしまった。
待っている間 どうしようかな…
すぐ終わるかもしれないが…ずっと疑問に思っていたことをアルジーに聞くことにした。

「ねぇ…アルジー…」
「" んー?どうしたハルカ "」
「どうして サラちゃんにはアンタで、私は名前呼びなの…?」

ずっと疑問だった。
どうして私の事だけハルカと呼ぶのか。
誘拐犯側だから名前を知っているのは当然かもしれない。
けれども、サラちゃんやケイジさんが話しても名を呼ばなかった。
気の所為なのかもしれない。だけど、不思議で仕方がない。

「" あーそれはだなぁ、お前は特別だからだ "」
「特別……?どうして…」
「" 詳しくは話せない。ただ、お前は生き延びて欲しい。それだけだな "」
「そんなこと…信じれないよ……」
「" まぁ普通はそうだろう。信じなくていいぜ。ただ、気をつけろよ "」

ここからが、本番だからな。
確かにアルジーはそう言った。
ここからが本番?まだ出られないってこと…?
これ以上に大変な目に遭うということだろうか。

考え込んでいるとケイジが戻ってきたようで、ハルカに行こうか、と声をかけた。
追いかけようとしたが、ピタッと止まり再度アルジーの方へ向き直った。

「教えてくれて、ありがとう。」
「" …!…ああ、気をつけろよ "」

ハルカはケイジを追いかけるため、アルジーに背を向けた。
詳しいことは分からない。
だが…これで最後という訳では無いようだ。
アルジーの居た部屋から出るとケイジが待っていた。
慌てて駆け寄り、遅くなってごめんなさい、と声をかける。

なにかこじ開けれるものを探しに行くと言ったソウは結局戻ってこなかった。
本当に探しているのか、はたまた…
妙な考えが浮かんだが頭を振ると、探索を再開した。




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